ジャズピアニストでありながらメタルファン、そして大のBABYMETALファンとしても知られる西山瞳さんによる連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。今回は、BABYMETALが先日10月10日をもって10年間にわたって行われてきた〈LEGEND=ライブ〉を封印すると発表した件についてです。 *Mikiki編集部
2021年10月11日の深夜0時にBABYMETAL公式YouTubeに動画がアップされ、10年にわたる活動が〈封印〉されました。
〈封印〉とは……?
この後どうなるのかわかりませんが、今まで通りファンとしてはゆるやかに待っていようと思います。
ということで、いつ封印が解かれるかわからず、しばらく大好きなBABYMETALのことをここで書く機会がないかもしれないので、今月は今年のBABYMETALのことを。
2021年は武道館で10公演のライブシリーズ〈10 BABYMETAL BUDOKAN〉があり、9月29日に映像作品とCDになって発売されました。
BABYMETAL 『10 BABYMETAL BUDOKAN』 トイズファクトリー (2021)
このコロナ禍の中、公演できたこと自体が素晴らしいことだったと思いますし、緊急事態宣言下に大規模な公演を連続して行う側の緊張感を想像すると、その努力は多大なものだったと思います。
私も「ヘドバン」の取材で毎月武道館に行っていましたが(Vol.29、Vol.30にレポートを書いていますのでぜひご覧下さい)、感染症対策に関してはそれは見事なもので、長蛇の列ができないように、密にならないように、声を出さないようにと複数の対策が考えられ、会場の消毒も頻繁で、徹底的な対策の様子に感心しました。その様子の一端は、9月29日発売のライブアルバム『10 BABYMETAL BUDOKAN』で聴くことができます。開演前冒頭アナウンスでは、声出し禁止についてはもちろん、会場でこれだけの感染症対策をしているのに、帰りにファン同士で飲んだりしたら台無しなので、「寄り道、ダメ、ゼッタイ」というアナウンスまで入っています。このライブ盤は、2021年の特殊な状況下でのライブの記録として後々貴重なものになるでしょうね。「こんなこともあったね」と早く言えるようになればいいなと思います。
収録された曲の聴きどころを少し。
リニューアルした“BABYMETAL DEATH - Shin ver. -”は、ここでしか聴けません。しばらく演奏されていなかったこの曲が始まった時、観客は声を出せないにもかかわらず、会場が強烈に着火しました。
この公演は、感染症対策として声が出せない代わりにSEで歓声を足していたのですが、とても自然だったので、ライブ盤としてパッケージされたものを聴いても熱気はそのままです。最近出た雑誌のプロデューサーのインタビュー記事を読むと、過去のライブでその曲の歓声が出ていた箇所にSEで歓声を足していたそうで、そこまで細かい準備をしていたから自然だったのかと驚きました。
ライブ中に声が出せないことについては、行く前には少しハンデを感じていましたが、行ってみればそれは杞憂でした。声を出すという方法以外に拍手や足踏み、ウェーブでも応援できるよううまく誘導があったし、制限された中でこの公演を最大限、良いものにしようという集まったファンの皆さんの気持ちが、一体感を高めていたようにも思います。
参加したくても参加できなかった方が沢山いらっしゃること、海外のファンが今年ライブで体験することが叶わなかったことなども考えると、大事にこの公演の時間を過ごそうと思いましたし、取材する身として、ちゃんとレポートしなければいけないなと思いました。
収録曲の話に戻りますが、“GJ!”が始まった時も沸きました。普段は「首の準備はできているか?」(=ヘドバン指令)と流れるアナウンスも、「手首の準備はできているか?」と、拍手を促すものに変わっています。
“NO RAIN, NO RAINBOW”の、曲間の静寂の時間もそのまま収録。メタルのライブは大声を共有することが通常ですが、静寂を共有することもできるのだという貴重な体験をしました。
そして、“Road of Resistance”の曲間でのSU-METALの晴れやかなメッセージ。10年の活動後、この状況下でもライブを完遂できたことを、改めて心から祝福したい気持ちになりました。
今回のこの作品は、ライブのキモを切ることなく、一本のライブとしてとても感動的に収録されていると思います。
また、バンドの音のライブ感、臨場感がとても良いですね。SU-METALの気迫も伝わってきて、気持ちが飛び越えて収録されているようで、とても好きです。
BABYMETALは活動10周年を終え、封印されることとなりましたが、私がBABYMETALを知ったのは2014年、そして2015年から本格的に曲を聴いてライブに行くようになったので、途中参加のファンですが、振り返ってみると、とにかくライブが命の音楽だったと思います。好きになると、ライブに行きたくなっちゃう。ライブに行けば、もっとライブに行きたくなっちゃう。
そして、女性としてBABYMETALが好きになった要因の一つに、ライブでMCがなく、プライベートや素のキャラクターはこちらから発見しに行かない限り分からない、出してこないことがあったと思います。少なくとも私が知った時には、あくまでもBABYMETALという音楽パッケージで提示されていたので、音楽とパフォーマンスに100%集中して楽しめた。それ以前の活動のキャラクターで応援していた方も沢山いると思うのですが、私のように、そうじゃなかったからこそ入り込めた人間もいるので、テレビなどの露出が少ないことは私にとっては良かったと思います。
今回のように、映像作品が出る時には同時にCDも出ます。ただ映像も買うんですけども観るのは1回か2回だけで、結局CDだけ聴いていることが多いんですよね。
それは多分、BABYMETALライブ中毒みたいになってしまっているからです。観るということに関しては、次に生で観られる時まで置いておきたいところがあって、我慢して待つことも、ちょっとしたエンターテイメントになっているんですよね。
だから封印もいつ解かれるかわかりませんけれど、いつまでも待てます。今まで聴いたことない方には、この封印期間中に追いつけるチャンスですね。とりあえずこの『10 BABYMETAL BUDOKAN』から徐々に遡って聴いてみて、間違いないと思います。
また、同日発売されたBABYMETALのプロデューサーKOBAMETALの著書「鋼鉄(メタル)っぽいのが好き -人生9割メタルで解決-」は、メタル初心者の方にもとても面白く、興味を持って頂けるメタル論だと思いますので、ご興味があればぜひ。
LIVE INFORMATION: 西山瞳
2021年10月24日(日)15:00~
YouTubeチャンネルにてライブ配信予定
西山瞳ソロ
2021年10月29日(金)東京・小岩COCHI(03-3671-1288)
デュオ:西山瞳(ピアノ)、maiko(バイオリン)
開演:19:00(2セット、21:00閉店)
チャージ:2,800円
2021年10月31日(日・昼)神奈川・横浜 上町63(045-662-7322)
トリオ:西山瞳(ピアノ)、市野元彦(ギター)、西嶋徹(ベース)
開演:15:00(2セット)
料金:3,000円
2021年11月3日(水・祝)神奈川・茅ヶ崎 ハスキーズギャラリー
The Tree Of Life:西山瞳(ピアノ)、安ヵ川大樹(ベース)、maiko(バイオリン)
開場/開演:13:30/14:00
料金:3,500円
2021年11月6日(土)埼玉・蕨 Our Delight(048-446-6680)
ピアノデュオ:西山瞳(ピアノ)、堀秀彰(ピアノ)
開場/開演:未定/未定
チャージ:3,100円(その他各種割引あり)
2021年11月13日(土・昼)東京・池袋 Apple Jump(03-5950-0689)
デュオ:西山瞳(ピアノ)、牧山純子(バイオリン)
開場/開演:13:30/14:00
2021年11月19日(金)神奈川・横浜 上町63(045-662-7322)
トリオ:西山瞳(ピアノ)、小牧良平(ベース)、則武諒(ドラムス)
開演:18:30~19:20、19:50~20:40
料金:3,000円
2021年11月23日(火・祝・昼)兵庫・神戸 gallery Zing(078-413-4888)
デュオ:西山瞳(ピアノ)、かみむら泰一(テナーサックス)
開場/開演:13:30/14:00(2セット)
料金:3,000円(一般)、1,500円(学生orミュージシャン)
2021年11月26日(金)東京・小岩COCHI(03-3671-1288)
デュオ:西山瞳(ピアノ)、馬場孝喜(ギター)
開演:20:00(2セット)
チャージ:2,800円
RELEASE INFORMATION
西山瞳トリオ、7年ぶりスタジオアルバム『Calling』好評発売中!
リリース日 :2021年9月15日
価格:2,970円(税込)
ダウンロード:https://linkco.re/4eUdzuQ2
西山瞳(ピアノ)、佐藤“ハチ”恭彦(ベース)、池長一美(ドラムス)
TRACKLIST
1. “Indication”
2. “Calling”
3. “Reminiscence”
4. “Lingering In The Flow”
5. “Etude”
6. “Loudvik”
7. “Drowsy Spring”
8. “Folds of Paints”
PROFILE:西山瞳
1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシックピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコース・ジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I’m Missing You』を発表。ヨーロッパジャズファンを中心に話題を呼び、5か月後には全国発売となる。2005年、横濱ジャズ・プロムナード・ジャズ・コンペティションにおいて、自己のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をSpice Of Life(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めてストックホルム・ジャズ・フェスティバルに招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。
以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、インターナショナル・ソングライティング・コンペティション(アメリカ)で、全世界約15,000エントリーの中から自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコード・ジャズ総合チャート1位、HMV総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自己のレギュラートリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『シフト』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカバーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、YOUNG GUITAR誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズ両面から話題になり、すべての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。同作は『II』(2016年)、『III』(2019年)と3部作としてシリーズ化。2019年4月には『extra edition』(2019年)もリリース。
自己のプロジェクトの他に、東かおる(ボーカル)とのボーカルプロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグバンドへの作品提供など、幅広く活動。横濱ジャズ・プロムナードをはじめ、全国のジャズフェスティバルやイベント、ライブハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさの共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。