メタラーのジャズピアニスト西山瞳さんによるメタル連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。今回は、鉄兜がトレードマークなビジュアルも強烈な冠徹弥さんによるソロプロジェクトTHE冠について。西山さんが惚れ込むTHE冠は、2025年10月15日(水)にニューアルバム『MY NAME IS HEAVY METAL』をリリース。新作を聴いた西山さんが、〈メタルとユーモア〉について考えました。 *Mikiki編集部

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THE冠 『MY NAME IS HEAVY METAL』 Hyper Deathler(2025)

 

私が活動している分野は、ジャズ。

普段、スタンダードジャズよりも、自作曲を演奏していることの方が多いですが、ジャズという美しい音楽に根差したものでありたいので、普段の練習はジャズジャイアンツの演奏をコピーして体に入れる練習が中心です。

名演奏をフィジカルに知れば知るほど、ジャズの演奏の中には〈ユーモア〉と呼ぶべき成分がふんだんにあり、重要な要素の一つなのだと実感します。ユーモアとは、莫大な知識の積み重ねと、それをコミュニケーションの中で適切な時に出すセンス。ただのおちゃらけではありません。

 

翻って、ヘヴィメタルとユーモア。

一見すると、全然関係のないワードに見えます。

ユーモアが不要と思うメタルファンもいると思いますし、それはそれでとても理解できますが、日本には、高い次元でヘヴィメタルに極上のユーモアを持ち込み、成功させているグループがいますね。

その代表的なグループが、聖飢魔II、BABYMETALでしょう。

もちろん、聖飢魔IIはコンセプトやメディアでの話の面白さでユーモアとリンクする部分はありますが、音楽上で、曲の中にあらゆるメタルユーモアが散りばめられている。ヘヴィメタルの歴史へのオマージュや影響が各所にあり、歌詞の言葉の選び方のユーモアも、とてもハイセンス。

BABYMETALは、それ自体が〈アイドル × メタル〉というユーモアで出発していますが、初期は少女の声にメタルの轟音という違和感自体がユーモアとなり、それを武器にして世界へ突き進み、新たなメタルジャンルを作り出しました。

そして、同じく非常に高い次元で実現しているアーティストを忘れてはならない。

日本のメタル界に薪をくべ続けてきたあの男……。

※前回インタビューの締めの言葉でした

そう、冠徹弥、THE冠です。

 

いやもうね、10月15日発売の『MY NAME IS HEAVY METAL』をお先に聴かせてもらったのですが、参りました。素晴らしい素晴らしい! 素晴らしい!!!(3回言いました)

『MY NAME IS HEAVY METAL』というタイトルから、素晴らしい。

俺こそがHEAVY METALだ!」と宣言する潔さと同時に、勢いで喋ってしまった英語に少しの気まずさと笑いも含みつつ、最高のアルバムタイトルですね……!

この、ヘヴィメタルに対する真摯さとユーモアが常に同居し、最終的に泣かされ、「ああ、良いもの見せてもらったなあ」と大満足で劇場を後にするような余韻を残す……。まさにTHE冠劇場、多幸感あふれるヘヴィメタルです。

まだ少し早いので、発売を楽しみにしている方も沢山いらっしゃるでしょうし、1曲ごとの曲紹介はせず、今回は新譜を聴いて、THE冠独自のヘヴィメタルとユーモアについて考えてみたいと思います。