メタラーのジャズピアニスト西山瞳さんによるメタル連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。今回のテーマは、ジャーマンメタルの先駆者スコーピオンズです。結成60周年記念ライブ盤『Coming Home Live』のリリースも控えているなど、現役で活動しつづける超ベテランのベストアルバム『From The First Sting』から彼らの魅力に迫ります。 *Mikiki編集部

スコーピオンズの結成60周年記念ベストアルバム『From The First Sting』がリリースされました。古いアルバムから最新アルバムまで満遍なく収録されており、入門にもとても良いベスト盤です。
私自身もスコーピオンズはウリ・ジョン・ロート(ギター)在籍時を中心に聴いていたため、ディスコグラフィを眺めていても未聴のものが多くて、名盤『Blackout』もNHORHMをきっかけに聴いたぐらいです。このベスト盤で勉強しよう!と思いながら最後まで聴き、スコーピオンズはずっとスコーピオンズなんだなと、そんな物凄く平凡な感想を持っているところです。
60年ですからね。60年間、メンバーが変わったとしてもバンドが続き、〈ずっとスコーピオンズ〉という感想を持つほどストロングな音楽性、ファンに期待されることをずっとやり続けながら進化していくって、途方も無い道のりです。
ヘヴィメタルの名曲をジャズピアノトリオでカバーするNHORHMを始めて、ピアノで弾いても魅力的で、ジャズアレンジをしやすくて、しかもジャズアンサンブルをできそうなメタル曲を探しまくっていましたが、最もピアノで弾いて違和感がない曲が多いバンドが、スコーピオンズでした。
音楽の3要素には〈リズム、メロディ、ハーモニー〉がありますが、メタルの場合、通常リズムが真っ先に耳に飛び込んでくることが多い中、スコーピオンズはしっかりメロディとハーモニーが飛び込んできて、しかも曲の中で大きな変化があります。
通常、メタルのコピーをするとなると、自分の好きな範囲のバンド群を対象にしますが、私の場合、NHORHMのために(特に好きではないバンドも含め)広範囲を対象として楽曲のアウトラインを採取するということをしていました。採譜とかコピーとは書かず、〈採取〉と書いたのは、主に構成、リフ、メロディをメモしていく方法で、演奏のためではなく分析のために書き残しているからです。ちゃんとした譜面に起こすのは、曲を決めてから。
そのように広くメタル曲の構造を採取していると、歌メロディは、大雑把にですが、ワンフレーズ内でインターバルが跳躍するものは少ないです。メタルの面白い部分は、ギターリフやリズムの速さや重さなど別の部分であることが多く、そちらの個性の方が大事にされる傾向があります。しかし、歌はサビでとんでもない高音になったり、甲高いシャウトが入ったりするので、全体に音域が狭いわけではないですね。
メタルよりも古いハードロックの方が、歌メロは綺麗で跳躍も多く、ピアノで演奏するのには向いています。ハードロックのリズムの部分を先鋭化したのが、ヘヴィメタルだったりするので、当然のことですが。
スコーピオンズはどうかというと、私自身は、ギターリフより歌メロの方が先に思い浮かぶ。とにかく歌メロがダイナミックで、美しくて、頭に焼き付けられます。
ベスト盤収録で初めて聴く最近の曲も、その、歌がガバッと頭の中に飛び込んでくるインパクトが、聴き馴染んだ昔の曲たちと全く変わらない。このベスト盤2枚分、最初から最後までの31曲を聴き、凄い強度でそれをやり続けているバンドなのだと、改めて思いました。
〈スコーピオンズはずっとスコーピオンズ〉の原因は、勿論、クラウス・マイネがずっといるということが大きいです。メタルバンドのフロントマンである歌手がデビュー作からずっと変わらないというのは、結構珍しいかもしれませんね。