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美しい時間

 それら先行カット4曲の彩りを基盤にして束ねられた『flower(s)』は、「今回は音楽が負担になりたくない思いがあって、できるだけ皆さんの傍に置いていただきたいんですけど、生活の邪魔をしないというか、流していたら心地良くて、そこに引っ掛かる音色やワードがあったらいいなっていう思いがありました」という意図を前提にしながら、サウンド志向の面でもリリック面でもこれまで以上に彼女自身の心情をダイレクトに転写した充実作になった。

 「どうやって曲を作っていくのか手探りで始めたのがファーストで、より自分のやりたいことを追求したのがセカンド。その2枚を経ての今回なので作り方も大体わかってきて、音にもこだわって口を出すようになったし、自分も制作に携わってる人間なんだっていう責任を持つようになりました。今回はギターやベースをいつも一緒にやってるバンド・メンバーに入れてもらった曲もあって、生の温度感みたいなものも楽しんでもらえるんじゃないかなと思いますし、あとはコーラスワークにかなり力入れてて、前作とは比べ物にならないぐらいどの曲も物凄い数のコーラスを録ってるので、そこも聴いてほしいですね」。

 そんなこだわりは、例えばChocoholicと作った華やかなオープニングの“アメリ”にも具体的に表れている。

 「“アメリ”では最後に2Aを差し替えたんですけど、星野源さんの“不思議”を今年いちばん聴いていて、この曲のちょっとときめくところって何だろうって調べたらシンセの音だったんですよね。DX7を使ってるって星野さんがインタヴューで仰ってて、それだ!と思ってChocoちゃんに言ってDX7を入れてほしいってお願いして、ミックスを聴いたらグッときて、涙が出てしまうぐらいいい曲に仕上がったなって。そこも耳を澄ませて聴いてほしいなって思ってます」。

 抑えた歌唱が前作以上にしっくり馴染んだ印象は、初顔合わせのイケガミキヨシが提供した簡素で麗しいメロウ・ナンバー“美しい時間”にも流れている。先だって結婚も発表した彼女の、先述の“1LDK”にも通じるプライヴェートな表情は、アルバム全体の落ち着いた風情を象徴するかのよう。

 「イケガミさんはChocoちゃんと同じ事務所の作家さんで、やり取りはすごくスムースにやらせていただいた感じですね。かなり前にいただいたデモの段階でめちゃめちゃかっこよかったので、この曲をリードにできるようなアルバムを次は作ろうっていう思いがあって、大事に大事にしてやっと完成に至った感じです。歌詞はパートナーとの将来に関する内容に落とし込んではいるんですけど、実家の両親や友達もですし、ライヴでお客さんともまったく会えなくなってしまって、久しぶりに会えた時間の尊さを実感する2年間だったので、それをストレートに言葉にしようと思って“美しい時間”というタイトルから書きはじめました」。

 続く“Dress”も初顔合わせで、新進気鋭のポップ・ユニット、CANDYGIRLのDetchが手掛けたトラップ・ソウル風のモダンな一曲。翳りのあるアンビエンスを纏った音像は本作のムードを特徴づけるポイントだが、それと別の角度から彼女の深みを引き出したのがSosuke Oikawaによるインティメイトなスロウ“秘密”だ。

 「“秘密”はずっとヴォーカル・ディレクションで入ってくれてるOikawaくんと、インターネットとかUSのちょっとドープな深いほうのR&Bを1曲やってみたいなっていう話をして作りました。〈エリカ・バドゥとかああいう感じで歌わないとだめだよ〉って言われて、エリカ・バドゥはライヴ観たことあるんですけど、あれどうやったら歌えるんだよと思いつつ(笑)、めちゃめちゃ練習して。コーラスを組み立てたり、フェイクの付け方だったりも一緒に作っていったので、かなり聴き応えのある曲になったと思います。歌詞に関してもこの曲だけ具体的じゃないというか情景を重ねて書いていて、アルバムの中でも異質なんじゃないかなと思ってるので、ちょっとドキドキしてます」。