作品の原イメージへ、理想を追い求めて

 語るべきことは、音楽で。とは決して言わなかったが、静かな口ぶりで考えながら言葉を継ぐなかに、繊細さと思慮をうかがわせる聡明な人である。

 ミュンヘン国際コンクールで優勝した佐藤晴真が2019年12月、その凱旋ともなった初リサイタルで演奏したのがブラームス、ドビュッシーとプーランクだった。ブラームスはデビューCD『The Senses』へと実り、ドビュッシーは第2作『SOUVENIR』でフランクと結ばれた。「まず自分がどういうチェリストでありたいかということを考えると、やっぱりつねに挑戦していたい。今回はドビュッシーとフランクのソナタのまんなかに歌曲と小品を入れて構成しました」。

佐藤晴真 『SOUVENIR~ドビュッシー&フランク作品集』 DG Deutsche Grammophon(2021)

 ドビュッシーでは自然を、フランクでは神のことをつよく感じるという。「ドビュッシーのソナタはとくに最晩年の作品で、純粋に音楽に向き合っている。それも人為的ではない、自然の雄大さや、逆に気まぐれな感じがわりと色濃く出ているのが僕のイメージです」。

 そうして音楽を通じて顕れる自然に同化する部分と、それを空間と時間のなかで表現する演奏者としてのバランスはどうみているのだろう。「僕は弾いているときには〈どうにかしてやろう〉という気はまったくなくて、なにか音楽に弾かされているような、音楽に動かされているような感覚がいつもあって。音楽のイメージだったり、会場の空気感だったり、いろいろなところから動かされて自分の手が動いて弓が動いている。自分が弾いているという感覚はないですね。どこかで冷静なところも必要だと思いますが、バランスが重要かな」。

 フランクのヴァイオリン・ソナタやリート、ドビュッシーの編曲版でも、作品の原像に自分の楽器でいかに近づけるかを追求している。「結果的にチェロで弾いたらチェロの音楽になるだけであって、どんな作品でも極力本来あるべきであろう姿に集中して音楽をつくるということはつねにしていますね。どれだけ理想に近づけるか、自分との闘いというか。自分の思う理想像はひとつだと思うし。その理想が発展し深まっていくというか」。

 髙木竜馬の明快なピアノと、吉野直子の確かで優美なハープが、彼の求める作品のイメージをともに織りなす。「フランスのあの時代の音は、ユーモアにしてもエスプリにしてもわりと乾いたというか、ぱりっと明るいイメージで、そういう面で髙木竜馬君のピアノは本当に好きな音です。吉野直子さんのハープには、どこか現世とは違って、人の手が加えられないような世界を思い浮かばされますし」。

 まだ開いていない引き出しもあるのだろうし、これからが楽しみだ。さて、この人はどういう音楽家なのだろう? 「うーん……まだまだ勉強できる人ですね」と佐藤晴真は笑った。

 


LIVE INFORMATION

「クラシック音楽が世界をつなぐ」~輝く未来に向けて~華麗なるガラ・コンサート
2021年12月25日(土)北海道 札幌文化芸術劇場 hitaru
開場/開演:14:15/15:00

MUZAジルベスターコンサート2021
2021年12月31日(金)神奈川 ミューザ川崎シンフォニーホール
開演:15:00

日本フィル&サントリーホール とっておきアフタヌーン Vol.18
2022年2月2日(水)東京・赤坂 サントリーホール 大ホール
開場/開演:13:20/14:00

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