オール・ブラームス・プロでデビューする佐藤晴真

 「ぼくはブラームスに心惹かれています。ブラームスの作品はチェロの低音を効果的に用いて豊かにうたうように書かれているため、自分の声とシンクロする感じがするのです」

 佐藤晴真の声はまさにチェロの響きに似て低く深々としている。2019年9月、難関コンクールとして知られるミュンヘン国際音楽コンクールのチェロ部門において、日本人として初優勝を成し遂げた。名古屋出身の22歳。現在はベルリン芸術大学でイェンス=ペーター・マインツに師事している。その彼がデビューCDを録音した。プログラムはオール・ブラームス。

佐藤晴真 『The Senses ~ブラームス作品集~』 Deutsche Grammophon/ユニバーサル(2020)

 「レコード会社の方たちにはコンクール後のリサイタルで弾いた歌曲に興味をもっていただいたため、ソナタ2曲と歌曲を入れた選曲にし、音楽の流れを一番大切に考えて録音に臨みました」

  CDはブラームスのチェロ・ソナタ第2番で幕開けする。ソナタ第1番の21年後に書かれた作品だ。

 「第1楽章は上昇気流に乗る感じ。実際にはチェロとピアノのふたりで演奏するわけですが、ふたり以上の人数を想定してちょうどいいくらいの重さが必要。これはピアノがとても大変な曲です。 第2楽章はふつうにうたう感じで弾きたかった。うたい込みすぎるとくどくなってしまうので歩くような自然な感じが理想です。 第3楽章はピアノのメロディ―とチェロが寄り添い、両楽器が対等に書かれているためコンビネーションが大切。 第4楽章は親密的なロンドです」

 次いで、ソナタ第1番に関してはこう語る。

 「第1楽章は1音1音をかみしめるように弾かなくてはならない。〈腹で音を鳴らす〉というくらいの深さが要求されます。第2楽章は舞曲のメヌエット風。宮廷で踊られていたメヌエットですが、ブラームスは物悲しく、メランコリックな作風に仕上げている。それをどう弾くか、どう表現するかが課題です。第3楽章はフーガ。常に推し進めるエネルギーではなく、どこか壁がある内側のエネルギーに満ちています」
今回“死、それは涼しい夜”という歌曲も収録した。

 「歌曲は3、4分のなかにストーリーが詰まっている。それをチェロでいかに表現するかが課題です」

 常にマイペースを貫き、自分の音楽を一途に探求する姿勢はまったく揺るがない。内に秘めた情熱を大切に作品と真摯に向き合う。うお座で血液型はO型。団体行動が苦手でひとりでいることが好きだそうだ。使用楽器は宗次コレクションより貸与されている1903年製E.ロッカ、弓は匿名のコレクターより貸与されているF.Tourte。その名器とともに渋く深く情感豊かなブラームスを生み出し、聴き手の心を震わせる。

 


LIVE INFORMATION

京都市交響楽団 特別演奏会「情熱のチャイコフスキー・ガラ」
○2020年12月26日(土)18:00開演、12月27日(日)14:30開演
【会場】京都コンサートホール・大ホール
【出演】広上 淳一(指揮)岡田奏(p)佐藤晴真(vc)三浦文彰(vn)
【曲目】チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番変ロ短調op.23/チャイコフスキー:ロココの主題による変奏曲イ長調op.33~チェロと管弦楽のための/チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲ニ長調op.35
www.kyoto-symphony.jp/concert/?y=2020&m=12#id902