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スタンダードソングは歌詞が重要

――今回の『Ballads』、スタンダードを主に集めた山中さんのコンピレーションを聴いて、山中さんのスタンダード観・スタンダード論をお訊きしたいと思っています。ご自分のオリジナルや、歌詞のないジャズメンの曲を演奏するときと、スタンダードというか〈アメリカン・ソングブック〉を演奏するときは、アプローチが変わってくると思うんですが?

「そうなんです。スタンダードには歌詞がありますので、歌詞の意味合いを知って演奏すると、テンポや表現がおのずから変わってきますね。これはドラマーのエド・シグペンに教わったことなんですけど、本当はバラードで弾かなくてはいけない曲をすごく速いテンポにアレンジして弾いたら、〈君はこの曲の歌詞を知っているかい? 歌詞を知ったら、このテンポでは演奏しないはずだ〉と。自分のオリジナルには歌詞はありませんけど、歌詞を付けるつもりで作曲しますし、特にスタンダードソングは歌詞が重要だと思いますので、それを踏まえて表現するようにしました」

――内容もそうですが、音韻的なことも大事ですか?

「そうですね。リエゾンというか、ある音とある音をどう繋ぐか、みたいなことは、(フランク・)シナトラやエラ・フィッツジェラルドなどを聴いて学ぶことにしています。そう考えると、ジャズにもある種の〈あるべき音、弾かれるべき音〉が存在するんだな、と思えます。堅苦しく考える必要はないですけど。特にバラードにはそれを感じますね。

でも、それを聴く方に押し付ける気はありません。歌詞を見ながらじゃないとスタンダードはわからない、と言うわけではなく、ピアノによるバラード集だと思って聴いていただけば、と」

 

アレンジやリハモで奏でる〈マイ・バラード〉

――今回のアルバムの1曲目の“フォー・ヘヴンズ・セイク”は、メロディーもハーモニーも原曲に忠実に思えました。曲によっては、ハーモニーを大胆に変えたりもしていると思いますが、そのあたりの判断はどういう風にされていますか?

「“フォー・ヘヴンズ・セイク”は、ウェス・モンゴメリーの演奏にインパイアされて弾きました。オクターブ奏法でゆったりとした雰囲気で、ということを考えましたね。

『Ballads』収録曲“フォー・ヘヴンズ・セイク”

“キャント・テイク・マイ・アイズ・オフ・ユー”、これはバラードじゃないよ、って言われるかもしれないけど、私にとってはバラードなんです。メロディーを活かしてゆったり弾いていて、自分なりの〈マイ・バラード〉になったと思います。強いメロディーがある曲は、どうアレンジしても原曲のメロディーが残りますね」

『Ballads』収録曲“キャント・テイク・マイ・アイズ・オフ・ユー”

――11月6日の、すみだトリフォニーホールのコンサートのアンコールで“サマータイム”を演奏しましたね。あのアレンジもとても面白かったんですが、あれは?

「アレンジを施すときは。原曲を聴き込んでいると違うものが私の心に浮かぶので――ハーモニーだったりリズムだったりテンポだったり――それを形にしたいと思っています。

“サマータイム”の場合、気がつかないかもしれませんが、かなり複雑なリハーモナイゼイションを施しています。シンプルなAmではなく、同じメロディーが何度も出てくるけど違うハーモニーが聴こえてくるので、それを表現したいな、と思っていました」

2014年作『マイ・フェイヴァリット・ブルーノート』収録曲“サマータイム”