山中千尋が、約2年半ぶりに全編新録音で臨んだアルバムが『Today Is Another Day』のタイトルで発表された。移動制限が解かれ久々に戻ったニューヨークにおける、これが活動再開の狼煙となったわけである。加えて彼女にとってデビュー21年目という新ディケードの、記念すべき1作目ともなっていた。

リズムへのこだわりを全編に横溢させ、アフロにはじまりチャチャチャ、サンバ、モントゥーノ、ECM系グルーヴ、最後はフォーキーなブルーグラス調にも仕立てられる。しかし聴き込んでみればこの作品が、これまでアメリカの大手レーベルからリリースしてきた膨大な作品群の中でもひときわ印象を異にしていて、全編にふんわりとした同系色の懐かしみで通底されていることに気づかされるのである。

ここへ至るまでの閉塞感に満ちた生活、抑圧された表現行動、その間に接した読書やアートのことなど、新作への思いを深掘りするため、レコーディングスタジオへ足を踏み入れるまでの心の動きを探ってみたくなっていた。

山中千尋 『Today Is Another Day』 Blue Note/ユニバーサル(2022)

 

コロナ禍でひっくり返った世界と閉塞した生活

──現在は、もうニューヨーク暮らしを再開されている?

「昨年(2022年)8月にアメリカに帰ってきて、コロナ前に住んでいたところからは引っ越し、ハンプトンに新しいアパートを見つけました。コロナ禍では東洋人への偏見が蔓延していて、その風潮はまだシティ(マンハッタン)では露骨です。まあ注意していなければ危険だというのは、どこにいようと変わりませんけどね」

──それで、シティから少し離れたハンプトンを選ばれた。

「リゾート地の雰囲気があって、そこにしっかり居を定め今ではそこで曲を作ったり、ネットを使ってミュージシャンたちと交信しています。

パンデミックがあった2020年3月から昨年8月までは、アメリカには一度も帰れずでした。途中からヨーロッパへは行けるようになったんですが、そこでもロシア情勢次第でスエズ航空の南回りしか使えなかったり。まあドバイのちょっと普通じゃない暮らしぶりが眺められたり楽しくはあったのですが、基本的にずっとずっと日本に釘付けでしたね」

──ではその期間、かなり抑制された生活を強いられていたと。

「コロナのはじまり頃は、ちょうど前作『ローザ』(2020年)の完成をひかえていました。

そして日本ツアーで来日したところでコロナ騒ぎが勃発し、そこで世界中がひっくり返っちゃった。演奏という普段の生き方がまったく通らなくなってしまうんです。

オンラインの時代がはじまりますが、私、オンラインにどうにも馴染めなくて。そんな性格だし、個人的にもいろいろなゴタゴタに見舞われてしまうことになります」

──あまり深入りしてお訊きしないほうがいい?

「そうですね……。2021年10月の終わり頃まで、結局ものすごく閉塞した生活を送っていました。その間は、ギグの仕事がほぼ100%キャンセルになっていましたから」