昨年12月にソロアルバム『DREAM LAND』をリリースしたばかりのermhoiは、millennium parade、Black Boboiの一員としての活動を通じて注目を浴びている変幻自在のソロアーティストだ。2012年にボーカリスト、トランペット奏者として、4人組ジャズバンド、Mr.Elephantsで活動を始めると、2015年にはエレクトロニカやアンビエントに傾倒した初のソロアルバム『Junior Refugee』をリリース。そのほかにも人力ミニマル楽団の東京塩麹やモノンクル、ドラマー石若駿のソロプロジェクトであるAnswer to Rememberなどの作品やライブに参加しながら、ファッションブランドや演劇、TVCMへの楽曲提供を行うなど、ジャンルやスタイルにとらわれないボーダーレスな活動において、高い柔軟性とオルタナティブな個性を発揮している。
フルアルバムとしては前作から実に6年ぶりとなる『DREAM LAND』では、シンセサイザーやDTMを駆使して紡いだ繊細にして心地よいエレクロニックなサウンドスケープやビートと、自身で歌い演奏するピアノやハープ、さらにストリングスやウッドベース、ノイズやフィールドレコーディングの素材などが、夢と現実の狭間に混在する唯一無二の音楽空間を現出。そして、その手で掴めそうで掴めない、夢のような作品世界は聴き手の想像力をどこまでも喚起しながら、彼女のあらゆる音楽に対するオープンで挑戦的なスタンスを浮き彫りにしている。
コロナ禍において全世界的に不思議な孤立状態が続く昨今、不確かな状態から生まれる不安感に足を絡め取られることなく、想像や夢想をクリエイションに転換するための実験を厭わないermhoi。彼女が生み出す音と言葉の響きはポジティブだ。その尽きない想像力や夢想力の源泉を探るべく、新作アルバムについて話をうかがった。
常に個としての自分を保ちたい
――ここ数年、Black Boboiやmillennium paradeの一員として、はたまた映画の世界で声優や音楽家として、活躍の場が拡がり続けていますが、ご自身の活動を振り返っていかがですか?
「私は興味の範囲が広いということもありますし、一つ一つの仕事から得られるものはたくさんあるので、オファーが来たら、スケジュールの都合やよっぽど自分に合わないもの以外、基本的には断らないスタンスで長年活動を続けてきたんです。だけど、確かにいろんなことをやっているし、振り返ると、自分でもびっくりするくらいです(笑)。
もともと、私は、例えば、学校や部活動、仕事とか、そういう何かしらの、何処かしらのコミュニティーに属しているという感覚が希薄で、一つの場所にどっぷり浸かるんじゃなく、いろんな所に関わっていく在り方のほうが合っていて。仮にどこかのコミュニティーに混ざっていたとしても、個としての自分を保ちたいんですよ。
そのうえで、その場に応じた自分の立ち位置や役割を汲み取りつつ、自分を含めたみんなが居心地のいい環境作りを考えていったほうが、すべての活動を楽しくできる。そういうことを活動のなかで学び続けているんですけど、常に一緒に動き続けているmillennium paradeの現場でさえも毎回戸惑いがありますし、その度に状況にアジャストしながら活動している感じですね」
――millennium paradeは、音楽に限定されないアーティストたちがお互いを刺激し合いながら、これまでにない作品を生み出しているコミュニティーとして注目されていますが、ermhoiさんは帰属意識が希薄であると?
「有機的な人との繋がりを通して、コミュニティーを広げていくスタンスに憧れはあるんですけど、自分のシャイさゆえにまったく接点のない人とその場で話し込んで繋がっていくのが苦手で。知り合いの知り合いみたいな出会い方だったり、そうかと思えばオンラインで連絡をくれた人と会ってみたりとか、ダイレクトではなく、間接的な繋がり方がほとんどなんですよ。ミレパも私が2015年にファーストアルバム『Junior Refugee』を作った時に、東京塩麹の額田(大志)くんか石若駿のどちらかが(常田)大希にそのアルバムを紹介してくれて。お互いインディペンデントな音楽家としてDaiki Tsuneta Millennium Parade名義のアルバム『http://』(2016年)のレコーディングに誘われたことをきっかけに、活動に参加するようになっていったんです」
――かたや、Black Boboiというのは、それぞれが個で活動してきた小林うてなさん、Julia Shortreedさんと、活動の基盤となるコミュニティーを作ることを意識して結成されたグループですよね?
「そうですね。私が所属するコミュニティーレーベルのBINDIVIDUALとBlack Boboiは例外というか、自分にとって特殊なケースなんですよ。なおかつ、数年前に結成したBlack Boboiは、新しく見つけた居場所というか、新しい人との出会いや表現方法、ツアーに出ることを含めた活動形態も含めて、初めての体験だったし、自分にとって刺激がありつつ同時に居心地のいい場所だったんです。
さらにコロナ禍で籠もる日々が続くなかで、3人それぞれが世界に対して思うこと、自分の人生に対して思うことも少しずつ形を変えていって、大きく重なる部分と違う部分を再認識していったことで、自分にとっての大事な心の拠り所になっていったというか。いつも一緒にいるわけではないですけど、言葉を交わしたり、会ったりすると、3人の絆や自分を思い出すんです。だから、バンドというより、家族みたいな、不思議な形態になっていってるような気がしますね」