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④Electric Light Orchestra “Twilight”

ワタナベ「実は今月の〈イエナベ〉、今回がひとまず最終回ということで(悲しい)せっかくなので僕が人生で一番好きな曲と暫定的に定めている曲をご紹介させてください。

この曲は最近だと(全く最近じゃないけど)テレビドラマ版の『電車男』のテーマソングとして流れていたので割と皆さん聴いたことあるんじゃないかと思います。『天才てれびくん』のMTKコーナーでヤマチーズが歌っていたので知っているという方はおめでとう、同世代です。

この宇宙感、ワクワク感。でも歌詞はずっと〈夜明け前の薄明かり、夢か現実かも曖昧な中、僕はもう少しこのままでいたい〉みたいなぼんやり感。ずっとずっと追い求めていたはずの希望を見失ってしまったんだけど、何故だか心地よく感じている、みたいな感じなのかな。切ないよー。

なんかイメージ違った!とか思った方は是非、あらためてそんな気持ちで聴いてみてほしいな」

イエナガ「リリースが81年……この時点で描かれている未来感と今の差にガッカリしちゃうくらいフューチャーなシンセ! あとはワタナベくんも言ってるけど、『電車男』をめちゃくちゃ思い出しちゃったな。晴れた日曜日とか、少し贅沢な気分で過ごしたい時に同じくELOの“Mr. Blue Sky”を流して〈うわーしょっぺー!〉となるのが大好きなんですけど、本当にこのバンドは器用ですよね。

トワイライトって、単なる薄明かりなので夜明けか日暮れかは特定されてないんですって。そういうワクワク感、meiyoが今後日本で担っていくんでしょうね?」

酒井「そうだそうだ、meiyoが担っていけ~! おそらくタカシくんもそうだと思うけどELOはユニコーンがきっかけで聴き始めて、特に“10538 Overture”のノコギリを引いてるみたいなチェロの音と切ない下降系のコード進行にやられました。2015年のbounceのこの記事、面白いです」

 

⑤四つ墓 “カリグラの弔鐘” 

イエナガ「僕の古巣と言うとなんかカッコつけすぎですが、SoundCloudで活動していた頃からずっとファンとして追いかけている四つ墓からこちらの曲を。女の子二人組で宅録ユニットなんですが、この凄まじい才能にみんなが気づいて欲しい。

ミュージカルを観劇しているとすら錯覚してしまうくらい目まぐるしくて、7分があっという間。マスロック的なアルペジオが急に大正琴みたいなトレモロにもつれ込むメインリフ、ラ・カンパネラの引用を交えたクラシカルな間奏、壊れたトイピアノが鳴りながらシューゲイザーチックな轟音で幕が下りていく。

頭の中で妄想した音楽を全部吐き出して形にしてしまえる宅録の楽しさを全て使い切った怪作じゃないでしょうか。他のアーティストに例えるのは無粋かと思いますが、高校生くらいの時に聴いていたら椎名林檎の『加爾基 精液 栗ノ花』くらいの衝撃を受けていただろうな……」

ワタナベ「この天才感はなんというか、何とかして自分の知っているものに例えないと不安になる感じというか。イエナガも椎名林檎を引き合いに出しているけど、自分も初めてCö shu Nie観たときとか、THE BACK HORN聴き狂っていたときとか、そんな時期の、感性が無敵だった頃を思い出したりした。

心から音楽に感動してアーティストを好きになる時必要なものが揃っていて。その一つの要素として(サブスク時代の短尺曲へのカウンターとも言えるような)尺の長い曲は、今こそ意味を持つかもね。素晴らしい」

酒井「それで言うと、数年前にサンクラで聴いて一番ビビった曲が6分半あったのを思い出しました。サカナクションとかミスチルとか、自分たちが聴いてきた音楽を自己流に咀嚼して混ぜてうまく吐き出してて、その6分半が一瞬で。colormalの“夢みる季節”っていう曲なんですけどね……この曲もそれに通ずるものを感じました」

 

⑥松平健 “マツケンサンバⅢ”

ワタナベ「〈マツケンサンバ〉と聞いてみなさんが一般に思い浮かべるのは、実は“Ⅱ”なんですよね。で、今回ご紹介するのは“Ⅲ”です。“Ⅱ”を作った宮川彬良さんが“Ⅲ”でも超名曲を作っていました。リファレンスは当然“マツケンサンバⅡ”だと思われます。サビ前のフレーズとかほぼまんまですね(笑)。

“Ⅱ”はずっと明るくて、それがたまらなく切なくて聴くたびに泣いてしまうんですが(この感覚が伝わる人しかこの記事読んでなさそうなので安心して書けますね)、“Ⅲ”は短調と長調を行き来するスタイル。

そしてサビはやはりドカンと、泣けるほど明るいのですが、特に心動くのは折返しでくる〈朝まで踊ろう〉の箇所。こんなん泣くよ。辛さを知ってる人しか書けない明るさなのよこれは。泣きながら、慰めあうように、でも辛いとこ見せないように精一杯笑いながらの踊りなのよそれは! もう(泣)!」

イエナガ「連載開始から丁度1年くらいですかね? おかげさまで自信のない文章を書く作業もかなり楽しめるようになったし、MikikiではGRAPEVINEの新譜レビューをさせて頂いたりと本当にお世話になりました。酒井さん、ワタナベくんのグループLINEが月末に動き始めると時間の流れを感じられて良かったなあ。

そんな万感の思いを込めた最終回で最後に紹介するのがこの曲って!とは思いつつ、鍋でも突きつつ話すようにいい曲を紹介するのがこの連載の趣旨でしたね。

高校生の頃、一番仲のいい友達が誕生日にちょっとアダルトなDVDをくれたんですよ。いらんもん渡しやがって、なんて思いつつパッケージを開いたら“マツケンサンバⅡ”の振り付け教則ビデオだったっていう。そんな思い出も相まって泣けましたよ。てか、全然サンバじゃないし。マンボだろ。でも、そんなごった煮で笑えて泣けてしまうのがJ-Popだと思ってます。

あー、楽しかった! またいつか特別編として集まって記事でもラジオでもやりましょうね。それではまたどこかでお会いしましょう!」

酒井「同じことを思った、最後にこれ!?っていう。でも、もともと赤い公園が好きで仲良くなった3人が〈なぜ音楽が好きなのか〉というポイントを、タカシくんが最後に端的に表してくれていてよかったです。〈オンガクサイコー!〉って思いました」

 

というわけで、当連載は今回で最終回です! 毎回グッドミュージックを選曲してくれたイエナガ氏、ワタナベ氏にはまたどこかで会えたらいいな、と期待しつつ、4月に東京でのワンマンライブを控えたcolormalと、最近では〈THE FIRST TAKE〉にも登場したmeiyoの、それぞれの今後の活躍にも期待していただければ幸いです! これまでお読みいただいた読者の皆様、紹介させていただいたアーティストの皆様、ありがとうございました!

 


LIVE INFORMATION

【colormal】自主企画“C”特別編 colormal単独公演“CALL”(延期公演)
2022年4月30日(土)東京・渋谷TOKIOTOKYO
開場/開演:17:30/18:00
予約/当日:3,500円/4,000円(+1ドリンク400円)
★詳細はコチラ