2021年よりバンド体制になったcolormal(カラーマル)のボーカル/ギター担当イエナガと、TikTokでブレイクし先日メジャーデビューを果たしたmeiyoの中の人・ワタナベタカシの二人による連載〈今月のイエナベ!〉。友人同士でもある二人が、前月に聴いて良かった音楽を3曲ずつ、〈イエでナベでも食べながら報告しあう〉ように紹介する連載です(たまに編集の酒井が茶々を入れます)。それではお二人、張り切ってどうぞ~!
★colormalイエナガとmeiyoワタナベタカシの〈今月のイエナベ!〉記事一覧
①ベント・ファン・ルーイ(Bent Van Looy) “My Escape”
ワタナベ「この曲やばいでしょう。もともとダス・ポップ(Das Pop)というバンドで活躍していたボーカリスト、ベント・ファン・ルーイのソロ名義。ちなみにソウルワックス(Soulwax)ではドラムも叩いてるらしい。まーたドラムボーカルがいい曲出してる!!
曲も声もやばいですが何よりやばいのが知名度の低さ。日本ではまだ知られていない、とかならまだ分かるんだけどこのYouTubeの再生回数ったらない。映像も含めた作品の完成度と全く釣り合っていない。
このクォリティーの作品が、公開から5年たった今この再生回数ということで、もはや世界に絶望すら感じます。ごくまれではありますが来日ライブもしていたようです。また来てくれたらいいなあ」
イエナガ「いや、再生回数が少なすぎない!? タイトルにもあるように色んなことからの逃避行がMVになっているのかな。海外のバンドやアーティストって日本に比べて再生数だけで測れない部分があるとしたって、歯痒く思ってしまうな。過去にmeiyoの楽曲についてレビューした時も書いたんですが、ドラマーとしての視座を持って曲を書く人はリズムで曲を転がすのが上手いんだよなあ。
ソウルワックスのドラムもしている、って事で気になって検索してみたら(ライブ動画で)ドラムが3人もいて笑っちゃった。ソロと異なってミニマルテクノに可能な限り身体性をぶつけるようなタイトさで、さらににっこり。
メインで参加しているバンドと大きく異なる音楽性のソロ活動って点では、最近出たtricotのヒロミ・ヒロヒロのソロプロジェクト〈Fennel〉が凄まじくよかったのでこちらもおすすめです」
②FUJI “煌めき”
イエナガ「今年一番大切にしたいアーティストを見つけたので紹介させてください。僕のInstagramにDMで〈音源を作ったので聴いてください〉と送られて来たのがこのFUJI。近年のベッドルーム・オルタナティブな界隈を総括する様な傑作じゃないかと思います。僕はSoundCloudから音楽にどっぷりとハマったんですが、LOWPOPLTD.や君島大空、Momあたりが活動を始めた頃で。その頃の空気感を想起させられました。
アルバム全体を通して取り留めのない考え事を丁寧にコラージュした様な歌詞、誰の小言も受けつけないザラザラのギターがまさに宅録の魅力を表しています。
表題曲“煌めき”のサビ後半でコーラスが不協和音になってしまっているんですが、例えば自分が編曲に携わったとして、そこを訂正しないだろうなと。音楽的にNGなことでもその人の音源の中では許されてしまう、ゾーンみたいなものに入っているんですよ。初めての音源にしてこれですから、本当にこれからが楽しみなアーティストです」
ワタナベ「最近は本当にめっきり、こういう音楽と出会う機会が減ってしまったような気がする。2021年現在のバンドブームの落ち着きっぷりから考えると、こういった初期衝動を目の当たりにできる事自体がとても尊いことのように思えて、グッと切なくなってしまった。
昔狂ったように聴いていたインディーズバンドの音源とか聴き返すと結構際どい不協和音で歌ってたりするから、あの頃の自分はリスナーとしてもゾーンに入っていたんだなぁ、なんてことも思いつつ。日本の音楽業界になにか大きな転換期が訪れるのではないかと、期待してしまう一曲でした」
③グデイ “Songs from the thistime”
ワタナベ「超自由音楽ユニットを自称する二人組アイドル、グデイ。僕も以前“305KB”、“GOODDAY!!!!!!”の2曲を提供させていただきました(ちなみに“305KB”のMVとジャケットには『岡田を追え!!』の岡田康太さんが出演しております)。
二人は音楽をひたすらディグり続ける筋金入りの音楽好き。〈固定観念に囚われずに自分たちの好きなアーティストたちと一緒に音楽を作りたい! だって、良い音楽は良い音楽じゃん!〉……言うは易しの勢いを、持ち前の人懐っこさと行動力によって、ことごとく実現してしまう。自己プロデュース力にも非常に長けた奇跡のユニットだとおもいます。
そんな二人に呼応するように、古今東西ロック〜パワーポップの雄たちからは次々と名曲が提供され続けているというわけです。“Song from the thistime”は、その集大成みたいな曲。作曲はtotosフカミズコウヨウ氏。編曲は竹内亮太郎氏、作詞は竹内サティフォ氏とF水K洋氏という豪華布陣による珠玉のアンセム。
先日、前代未聞の5枚同時リリースされた各5曲入り全25曲のEPシリーズ『ディグ』はその名の通り、聴くだけでたくさんの新しい出会いを得られること請け合いの、宝箱のような音源であります」
イエナガ「thistime recordsの面々揃い踏み、ということで本当にあの界隈の皆さんってメロディーセンスとパワーポップの持つ魅力を最大限引き出す人たちが集まってますよね。近年だとcinema staffもthistimeがマネジメントしていて、パワーポップにとどまらずエモからアイドルまでいい音楽が集まっているイメージです。そんなところにもワタナベタカシさんは出入りしてるなんて、さすがっす! チーッス!
にしてもこの曲はメインリフの切なさに、その筋の楽曲提供がめちゃくちゃ上手な印象のある竹内サティフォ氏のちょっとキッチュで胸を打つ歌詞がマッチ。他の曲の提供アーティストを見ても、全盛期の木村カエラかってくらいメロディーメーカーが集っていてそりゃ良いわと」
④猫を堕ろす “痛みは一瞬 貴方は永遠”
イエナガ「今月発売のアルバムから。Mikikiで記事も出ていたと思うんですが、このアルバムのリリースツアーに僕(colormal)も参加させて頂きまして。配信バージョンには僕のリミックスも収録されていたりします。
ツアーの中で演奏されていたこの曲の前に、ykpythemind(ボーカル/シンセサイザー)が亡くなった友達に向けた曲だと言っていて、だからって訳では決してないですが心を抉られる様な曲です。
〈どういうふうに息を止めて/どこに潜ったら会えるんだろう〉と感じる出来事ばかりだったので、救われた様な感じすらありました。ちなみに生演奏はかなりアレンジを変えて大胆なレゲエ・スカ的なアプローチをしていたりもするので、是非ライブも見て欲しいバンドです。
猫を堕ろすは活動全てを通じて仕事関連の事をテーマにしているように思っているんですが、今作は〈クラウド〉がタイトルになっていて。無味乾燥な2021年のストレージ的な仕上がりになっています。〈歌は世につれ世は歌につれ〉とは言いますが、今年のことを思い出すときにこのアルバムがBGMになるだろうなって」
ワタナベ「猫を堕ろすはいつ聴いてもサビのメロディーが凄いね。リリースおめでとう! メインリフであってもハキハキせずややルーズに減衰するシンセ。二人のボーカルと極めて相性良い。人生の大切な曲としても、生活のBGMとしても聴ける。そんな絶妙で唯一無二なバランスを保っていて、なんかもう参考にできない領域までいっちゃってる。
……実は僕も去年、本アルバムにも収録されている“裏切り”という曲でRemix(という名のカバー……!)をさせてもらってます。めっちゃいいので聴いてみてね」
酒井「お二人とも仲良いと思うので純粋な疑問として訊きたいんですけど、ykpythemindさんってなんでykpythemindさんって言うんですか?」
⑤アマアシ “待たぬ朝に”
ワタナベ「個人的にギターボーカルの夏目龍一とは長い付き合い。僕が彼の前身バンドのサポートドラムをしていた流れから、ワタナベタカシ〜meiyoではずっとサポートギターコーラスをしてくれていた超重要人物。先日、『笑っていいとも』でおなじみの新宿アルタにてライブが行われたため、遊びに行ってきました。
今回紹介するのは6年前の曲ですが、改めて聴くと色々な発見があったので。6年経った今。近頃はそうそう聞かなくなってしまった長い間奏も愛おしいし、Aメロのメロディーを曲の最後でドラマチックに引用するアイデアも、TikTok・サブスク全盛の今を育った人たちにはなかなか気付いて貰えないんだろうなぁとか。そんなことを思いました。
そんなアマアシがつい最近出したワンコーラスデモ曲“風の栞”は極めてエヴァーグリーンで、素敵な曲なのでぜひそちらもチェックしてみてください」
イエナガ「ほんのりとマスロック感のあるキメ、シンプルに上手いリズム隊。そうそう、僕が中高生の時に訳もわからずライブハウスで観ていた〈上手いバンド〉ってこんな感じの人たちが多かった。SNSが主戦場になりきってもいなくて、まさに現場至上主義で実力が物を言うな時代だったんだろうな、と。概要欄に3markets[ ]の名前があったりして、そんなことを考えてしまいました。
ラストにかけてクリシェで時折変なコードが混ざりつつ下降して、そこに丁寧なコーラスが乗っかってきたり。曲を通しで聴いて最後のサビだけ美味しい進行、ってのは流行らないのかもね。みんなが耳にする部分でどれだけ最高速度に持っていくか、フルで聴いてもそこに向けてボルテージを上げていくことが重視されたり。え、新宿アルタってライブハウスがあるの?」
酒井「スタジオアルタって言ってたくらいだから(笑)!(現在の名称はKeyStudio)」
⑥overused “poolsiders!!!”
イエナガ「破壊的なまでに歪んだドラム、とてつもなく動き回るベース、どんなコードを押さえているのか気になってしかないギター。それらを超高速の音質で叩き込まれる……男の子って結局こういうのが好きなんですよ! 関東を拠点に活動してるバンドみたいで、なんとかして生で見たいと思っています。
the band apart、田中秀和(元MONACA)あたりの複雑怪奇なコード感に憧れ続ける文系少年の性癖にぶっささること必死です。窓を開けて叫び出したくなるくらいモラトリアム濃度の高い歌詞も相まって、サビ前のドラムで拳を突き上げたくなること請け合いなので是非ご一聴くださいませ」
ワタナベ「こりゃーかっこいい! 超ポップスだね。
どんなアレンジでも行けそうな普遍性が根底にある。だからこそ、これだけ歪んでても聴いたあとに〈とんでもなく美しいものを観てしまったような感覚〉に陥るんだろうなあ。ライブも絶対かっこいいでしょう。音圧に圧倒されたい気持ちもあるけど、逆に弾き語りとかで神々しさに圧倒されるのもいいな……なんて想像しちゃいました」
酒井「わ! いかにも自分向けの不思議なコード進行! あざす!」
次回は12月頭に公開予定です! お楽しみに!
LIVE INFORMATION
シバノソウのバンド×the Still pre. 「9月になる前に」
2021年11月13日(土)東京・下北沢GARAGE
出演:シバノソウのバンド、the Still、colormal、他
開場/開演:17:30/18:00
前売/当日:2,500円/3,000円(税込、別途1ドリンク)