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Destroyer “June”

田中「デストロイヤーが3月25日(金)にリリースする新作『LABYRINTHITIS』から、3曲目のシングル“June”が届けられました。これまでに発表された“Tintoretto, It’s For You”と“Eat The Wine, Drink The Bread”の2曲が素晴らしかったので、新作はかなりすごい作品になっているのではないかと思います。この“June”も名曲ですね」

天野「デストロイヤーことダン・ベイハー(Dan Bejar)の音楽に対する研ぎ澄まされた感覚ってすごいですよね。前作の『Have We Met』(2020年)も最高でしたし。ベースになっている音楽性は変わらないのですが、どんどん熟成されていっています。ダンが2020年に作曲し、ロックダウンが徹底された時期にアイデアをジョン・コリンズ(John Collins)と交換しながら制作したという新作は、前作に続いてコリンズがプロデュース。コリンズはニュー・ポルノグラファーズのメンバーで、長年デストロイヤーに参加しているミュージシャンですね。この“June”ではジョシュア・ウェルズ(Joshua Wells)のドラムやコリンズのベースがぐにゃぐにゃと変化していく強烈なグルーヴを醸成していて、〈ドリーミーでサイケデリックなんだけど踊れる〉というアーサー・ラッセル的なコズミックディスコが生み出されています。ずっと聴いているとトリップしそう……」

 

Abbie Ozard “Pisces”

天野「続いては注目のニューカマーの楽曲。UKマンチェスター出身のアビー・オザードの新曲“Pisces”を紹介します。この曲は、2022年7月1日(金)にリリース予定のEP『Water Based Lullabies』からのリードソングです。〈Pisces〉とは、うお座を意味する単語ですが、タイトルをふまえるとEP自体が〈水〉をテーマにした作品なのかもしれませんね。この曲はフローティンな音作りが気持ちいいです」

田中「ほのかにダンサブルなビートとメランコリックなサウンドを重ねた、〈これぞベッドルームポップ〉的な楽曲ですが、メロディー上のライミングと彼女の透き通るような歌声から、何度も聴きたくなるポップソングに仕上がっていますよね。彼女はこの曲で〈自分の強みを認識し、自分が何を欲しているかを制御し、自分の基準を高くセットすること〉を歌ったんだとか。そうした前向きなテーマも、この曲を聴いたときの心にスッと風が吹くような感覚に繋がっているんでしょうね。ニューEP『Water Based Lullabies』は楽しみな一枚です」

 

Tanna Leone “With The Villains”

田中「ケンドリック・ラマーと、映像作家でケンドリックのマネージャーでもあるデイヴ・フリー(Dave Free)が設立した会社〈pgLang〉が新たに契約した米LAのアーティスト、ターナ・リオン。ケンドリックの従兄弟であるベイビー・キーム(Baby Keem)に続く2人目の所属アーティストになりますが、リオンはほとんど無名のラッパーで、Instagramのフォロワーはまだ9,000人しかいません」

天野「彼がまずリリースしたのは、“With The Villains”と“Lucky”の2曲です。この“With The Villains”は、南部ヒップホップやクラウドラップのムードを思わせるダークなビートとリオンの気怠げなラップが特徴。プロデューサーは、シェフ9ザゴッド(Chef9thegod)とカルド(Cardo)の2人です。カバーアートや、モノクロの映像でリオンの顔をはっきりと映さないミュージックビデオもあいまって、すごくミステリアスですね。〈夜行性のベイビー 俺が見ているのは月〉など、夜をテーマにしたリリックも彼をますます謎めいた存在にしています。自己紹介ビデオもあるのですが、なんとも不思議なアーティストだと思いました。ケンドリックたちは、今後もこうやって才能をフックアップしていくのでしょうか? 〈pgLang〉がどんなコミュニティーになっていくのか、楽しみですね」