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豊かな伝統を踏まえて進化する現行ニューオーリンズのソウルフルな象徴――多方面で活躍するマルチな才人がポジティヴで奥深いニュー・アルバムについて語った!

 マルーン5での活動と並行して精力的に自身のリーダー作を発表し続けているPJモートン。特に故郷ニューオーリンズに活動拠点を移し、2017年に『Gumbo』を発表してからは、ほぼ毎年アルバムを出している。客演のオファーも絶えず、最近ではジョン・バティステのグラミー受賞作『We Are』やロバート・グラスパー『Black Radio III』への参加で日本においても格上げされた印象がある。

 そんな好調ぶりをキープしたまま発表した新作『Watch The Sun』は、ルイジアナ州ボガルサにある〈Studio In The Country〉で録音。かつて、PJのメンターとでも言うべきスティーヴィー・ワンダーが『Journey Through The Secret Life Of Plants』(79年)を録音し、メイズ feat. フランキー・ビヴァリーも同年作『Inspiration』のレコーディングで訪れた伝説的なスタジオだ。

PJ MORTON 『Watch The Sun』 Morton/Empire(2022)

 「すべてから逃れたかったんだ。そこには大自然とスタジオしかなくて、自分の使命に集中することができた。多くのマジックがもたらされたよ」。

 参加アーティストも豪華で、「曲のメッセージに相応しいかどうかだけを意識して選んだ」というゲストは、過去に共演した人と初顔合わせの人が半々くらい。アルバムは、切なくも美しいバラードの先行シングル“Please Don’t Walk Away”からジャマイカの俊英クロニックスを迎えたレゲエ調の陽気な表題曲へと繋がる部分に象徴されるように、何かが終わる切なさと希望を同時に感じさせる。制作も、パンデミック突入と同時にラップトップの故障という災難に見舞われながらスタートしたが、「それによって立ち止まって真実を見極め、より深く考えることができた」と、すべてが良い結果に繋がった。

 「〈関係が終わってしまう〉という思いからくる悲しみもあるけど、希望を持って終わる。我々の人生もそう。アルバム制作をしていた頃、世界は非常に暗い状況にあり、人々は混乱して落ち込んでいた。でも、太陽は毎日沈んでは昇るものだし、いちばん暗い時こそふたたび輝く太陽に近づいているのだとわかる」。

 ワーレイ客演の“So Lonely”も、歌詞とは裏腹にバウンスやラテンを下地としたような音が前向きな気持ちにさせる。スティーヴィー・ワンダーとナスを迎えた“Be Like Water”も〈水のように流れに身を任せよう〉と歌われるポジティヴな曲だ。

 「“Be Like Water”では最初にナスを思い浮かべた。曲の中にブレイクがあって、そこで彼のラップを聴きたかったんだ。この曲にスティーヴィー・ワンダーらしいフィーリングがあるのはわかっていて、スティーヴィーとは以前(“Only One”で)一緒にやったこともあったから、彼の参加は自然な流れだった。このメッセージを伝えるためには、十分に人生経験のあるふたりが必要だと思ったんだ」。