ジョン・アウェイから学んだ〈音〉への意識

――高校卒業後はオーストラリアの音楽大学に進学されていますよね?

「そう。ただ、高校を卒業してからアデレード大学のエルダー音楽院に進学するんだけど、その間に1年間ギャップイヤーを過ごしたんだ。プールの監視員とかスーパーマーケットの店員とか、音楽以外の仕事をいろいろやりつつ、ライブをしたりオーストラリアをめぐるツアーを敢行したりしていた。そのときにアデレード大学の先生とも一緒にライブをやる機会があって、ギャップイヤーを終えて大学のオーディションを受けたら、先生から〈マーティさん、2年生から入ってください〉と言われて、ラッキーなことに飛び級させてもらった。

大学時代はジャズのコースで勉強していたよ。そのときの僕の師匠はジョン・アウェイ(John Aue)という素晴らしいベーシスト。ギターも上手だった。アウェイ先生はすごく耳がよくてホントに最高なんだ。レッスン中は生徒の演奏を聴きながらいつもいろんなクエスチョンを投げかけてくれた。〈なぜそのコードに対してその音を乗せたのか〉〈このコードはどんな音が合って、どんな音が合わないのか〉〈コードに対してこういうアプローチもできるんじゃないか〉といったように、耳の良さを活かしたアドバイスをしてくれたんだ。

一番印象に残っているアウェイ先生の教えは〈どんなプレイをするときでも意識的であれ〉ということ。たとえばさっきの〈なぜそのコードに対してその音を乗せたのか〉というアウェイ先生のクエスチョンは、決して生徒の選択を批判しているわけではなくて、その音をチョイスした意図だったり、音を乗せるときに何を意識しているのかということだったりを、つねに考えながら演奏するように促していたんだ。そのスタンスは今でも僕の中に残っているよ。

アデレード大学には2年間通って、その後はメルボルンのモナシュ大学で1年間学んだ。その頃にはいろいろなフリージャズやエクスペリメンタルミュージックに触れる機会も多くなっていったね」

 

ユニークなメルボルンジャズ界のレジェンドたち

――いわゆる前衛的/実験的な音楽に興味を抱くようになったきっかけはありましたか?

「やっぱり子供の頃のリスニング体験は大きい。僕のお父さんにはレベル(Rebel)なところがあった。つまり反抗的で革命児的というか、普通のことに対して抵抗がある人だったんだ。お父さんも音楽の大学に通っていたんだけど、周りのギタリストがジャズのコースに進むなかでも〈それは嫌だ〉と現代音楽のプログラムを学んでいた。それもあってお父さんは変な音楽をいろいろ知っていて、小さい頃の僕にたくさん紹介してくれた。それで自然と僕もそういった音楽に興味を抱くようになった。

それともう一つ大きなきっかけがある。僕がアデレードに住んでいた頃は、やっぱりジャズやポップス、ファンク、ソウル等々が好きで聴いていた。けれどアデレード大学卒業後、メルボルンに引っ越したんだよ。そこで僕の人生の師匠でもある素晴らしいドラマーのアラン・ブラウン(Allan Browne)のバンドに入って1年半ぐらい活動した。2015年に亡くなってしまったけど、彼との出会いはとても大きな出来事だった。それとグレイトなトランペッターのユージーン・ボール(Eugene Ball)も忘れちゃいけない。その二人はメルボルンジャズ界のレジェンドで、彼らが僕をメルボルンジャズへと導いてくれたんだ。今でもメルボルンのジャズといえば彼ら二人のイメージが大きい。

アラン・ブラウン・カルテットの2015年のレコーディング動画。トランペットはユージーン・ボール

メルボルンのジャズはとても面白くて、ディープなフリージャズとエクスペリメンタルミュージック、それにディキシーランドジャズがミックスされてるような感じ。ヤバいね。もともと彼らと出会ったのはアデレード大学にいた頃、1週間かけてワークショップやコンサートをやるというプログラムがあって、そのときに一緒に演奏した。メルボルンに引っ越してからは関係が深くなって、エクスペリメンタルなジャズをはじめいろいろな音楽を知るようになっていったよ。

その後、僕のメンターだったのはトランペッターのスコット・ティンクラー(Scott Tinkler)。世界中からリスペクトされている最高なミュージシャンだ。彼と一緒に演奏した経験は忘れられない。それにテナーサックス奏者のジュリアン・ウィルソン(Julien Wilson)も、世界を見渡しても唯一無二の魅力を持っている。もちろんジョー・タリアさんもジーニアスだし、シドニーのザ・ネックスもめっちゃ好き。当時メルボルンでいろいろ聴いていた経験は今でも印象的なものとして僕の中に残っている」

スコット・ティンクラーの2015年のパフォーマンス動画

ジュリアン・ウィルソンの2020年のライブ動画

――ベーシストだと誰に憧れていましたか?

「若い頃に最初に大好きになったベーシストはモータウンのレジェンド、ジェイムズ・ジェマーソン。本当にめっちゃ好きで、僕にとってずっと特別な存在だった。それからジャズのベーシスト、ロン・カーターやポール・チェンバース、クリスチャン・マクブライドアヴィシャイ・コーエンをよく聴いていたね。メルボルンに引っ越してからはエクスペリメンタルでクリエイティブなベーシストが好きになった。やっぱりチャーリー・ヘイデンは素晴らしいなと思ったよ。

メルボルンだと6弦エレキベースのクリストファー・ヘイル(Christopher Hale)が本当にユニークなミュージシャンだと思った。彼はVCA(ビクトリア芸術大学)で講師も務めているんだけど、僕は個人的に彼のレッスンを何回か受けて、その機会に多くのことを学んだ。レッスンのときにちゃんと理論に基づきながら面白い変拍子の作り方を教えてくれたりして、とにかく並大抵のベーシストを超越していたね。

クリストファー・ヘイルの2022年のライブ動画

彼の弟子で僕の1年先輩でもあるジェイムズ・ギリガン(James Gilligan)も素晴らしいベーシストで、ギターやバイオリンも弾けるんだよ。ちなみにジェイムズ・ギリガンはVCAに行っていたので、生徒としてクリス・ヘイルに師事していたんだ。僕にとって直接的な学校の先輩というわけではなけど、音楽シーンでの先輩といった関係性。彼らからはとても大きな影響を受けている」