Photo by Randee St. Nicholas
[不定期連載]プリンスの1995~2010年
LOVE 4EVER AND IT LIVES IN...
今回は90年代を代表する名作と、80年代屈指のライヴ音源が立て続けに届きました!
90年代のプリンスの動きを大まかに二分するとしたら、新バンドのニュー・パワー・ジェネレーションを編成して時代に対応しながら所属するワーナーとの対立を深めていった前半期と、クリエイティヴ・コントロールを掌中に収めてマイペースな活動に移行していった後半期に分けることができる。そして、ちょうどその転換点にあたるタイミングでリリースされたのが95年の『The Gold Experience』だ。
楽曲を巡る権利関係の諸々もあって復刻が遅れたものの、このリイシュー・プロジェクト〈LOVE 4EVER〉シリーズがカヴァーする時代は『The Gold Experience』から始まっている。90年代プリンスという意味での重要性はもちろん、過去最高に厄介な状況下で生まれた過去最高にゴージャスで輝かしい名作をこの機会に堪能しよう!
こちらはRSD限定の2枚組LP仕様。95年に出回ったUSプロモ盤を復刻し、D面に“Eye Hate U”のリミキシーズが収録されています。

93年の誕生日に発音できないシンボルマークへの改名を宣言したプリンス。作品のうえではそれ以降もしばらくはシングル“Peach”などでプリンス名義は使用されていたものの、同名義で発表したアルバムという意味ではこの『The Gold Experience』が最初の一枚である。つまりは〈心機一転〉といった意味合いの強い作品ということになろうが、そんなシンプルな話でなかったのは歴史が示す通り。不和を隠すこともなくなった彼は、ワーナーとの契約に縛られた〈プリンス〉を葬りつつ、自分自身は別のアーティストとして契約の外側に出ようとした節もある。もともと同時期に構想されていたワーナーでの『Come』(94年)はプリンスを埋葬する作品で、それと同時に新しい自分は自主レーベルのNPGからこの『The Gold Experience』を発表し、新たな夜明けへ向かうイメージを描いていたようだ。
とはいえ、そういった背景のややこしさなどをすべて無視して聴いても差し支えない現在の目線からすれば、これほどポップで痛快なプリンスのアルバムというのもなかなかないのではないか。前口上の役割を果たす幕開けの“P Control”から饒舌なマイク捌きは快調そのもの。日本ではK-1中継のオープニングに起用された豪快無比なスタジアム・ロック“Endorphinmachine”に聴き覚えがあるという人も多いだろうし、ロック系のナンバーでは輪廻転生を歌った抒情的な“Dolphin”も美しい。連帯を歌うコンシャスな“We March”、90年代感のあるノーティなラップ・チューン“Now”、ホーンをあしらったセクシャルな“319”やソリッドで痛烈なPファンク風味の“Billy Jack Bitch”、そして“Eye Hate U”などの素晴らしいスロウ群……と楽曲ごとの色分けや役割も明快だ。当時のインターネット観を反映して〈体験にアクセスする〉というインタールードによって進行するトータルの聴き心地もいい。何より、掟破りの自主シングルとして久々の世界的なヒットを記録した必殺のバラード“The Most Beautiful Girl In The World”がある。
併せて特筆すべきは本作における演奏陣のタイトな一体感だ。NPG結成時から在籍するソニー・トンプソン(ベース)、マイケル・ブランド(ドラムス)、トミー・バーバレラ(キーボード)に元マザラティのMrヘイズ(キーボード)を加え、ダンサーのマイテが色を添えた陣容のカッコ良さは、バンドにおける唯一のギタリストとなったプリンスのソリッドなプレイを重厚なボトムと派手なシンセワークが支え、そこに生じるダイナミックなスケールの大きさはこの編成での集大成のようにも思える。悟りに近いメッセージを送る“Gold”での豪華絢爛なラストは、それこそ『Purple Rain』にも比肩するエンディング感かもしれない。
そう思えば、多くのプロジェクトが浮かんではボツになっていった混沌の時期にありながら、プリンスが当初のヴィジョンにこだわり、周囲と折り合いをつけてでも世に出したかったアルバムだというのも頷ける。彼のポップな華やかさや王道的なバランス感覚が伝わる親しみやすい名盤だ。
左から、プリンスの95年のミックステープ作品『The Versace Experience Prelude 2 Gold』(NPG/Legacy)、プリンスの94年作『Come』(Warner Bros.)

なぜこのタイミングなのかはさておき……中身については余裕で万人に推薦したいライヴ映像&音源が豪華盤で登場だ。84~85年にかけて行われた〈Purple Rain Tour〉から85年3月30日のNY州シラキュースにおけるライヴの模様が収められたこの『Prince And The Revolution: Live』は、もともとVHS/レーザーディスクで85年にリリースされた数少ない公式ライヴ映像として、ファンにはお馴染みだったもの。それから長い時を経て『Purple Rain: Deluxe Edition』(2017年)に同梱されたDVDで復刻され、さらにはコロナ禍でWHOらが立ち上げた基金による募金活動の一環として、バーニー・グランドマンのリマスタリングを経て〈ライヴ・アルバム〉として配信。このたびのリリースは、初フィジカル化となったその音源と映像をセットにした〈完全版〉的な復刻となる。
オープニングの“Let’s Go Crazy”からめまぐるしい勢いでヒット・チューンを連発し、“Baby I’m A Star”での放水、20分近いラストの“Purple Rain”まで駆け抜けるパフォーマンスは言うまでもなく圧倒的。この時期の公式映像という貴重さもあるが、それ以上にバンドの叩き出すエナジーには単純に興奮させられる。なお、豪華なパッケージやブックレットには初公開のライヴ写真を数多く掲載され、解説にはレヴォリューションの面々への最新インタヴューの内容も含まれているので、すでに中身を所有している人も見逃しは厳禁だ。
日本盤は〈3枚組LP〉仕様と〈2枚組Blu-spec CD2+Blu-ray〉仕様の2形態でのリリース! こちらはLP盤です
プリンスの作品とセットで楽しんでおきたい、今月の関連ディスクを紹介!

2021年に配信されていた話題の発掘音源が、今回のプリンス関連リイシューにも合う好タイミングで日本独自CD化! このマイティ・ソウルメイツなるプロジェクトは、別掲のソロ作も鮮やかなセント・ポールことポール・ピーターソンと、プリンスのオリジナル・ベーシストだったアンドレ・シモーン、ザ・システムのミック・マーフィー、シンガー・ソングライターのガードナー・コール(ヴァニティやエリサ・フィオリロにも曲提供)という4名が93年に結成していたというユニット。ニュー・ジャック感や再結成ザ・タイムにも通じるミネアポリス作法が融合した内容はいま聴くと実にいい感じで、当時出ていればミント・コンディションの好敵手となっていたかも? 90年代らしいコンテンポラリーな佳作だ。

『The Gold Experence』期を支えたリッキー・ピーターソンの実弟にして、80年代にはザ・タイム~ザ・ファミリーのメンバーに抜擢された才人。この最新ソロ作ではマイケル・ブランドやオリバー・リーバーらのサポートも得て軽やかなファンク~ジャズを披露してくれる。地元ミネアポリスやプリンスに捧げるムードもいつも以上に濃厚だ。

94イーストにも関わったピエール&アンドレのルイス兄弟が率いるバンドの唯一作。10年後にNPGに参加するソニーTがリード歌唱を担い、プリンスが“Got To Be Something Here”にギターとバック・ヴォーカルで助力している。今年の再復刻ではジャケの表記ミスも修正された。


