[不定期連載]プリンスのXXXX年
LOVE 4EVER AND IT LIVES IN...
多彩な時代の未発表曲を満載したアルバム『Timeless』の魅力とは?
マイケルとプリンス
「早くアイデアを形にしないと、神様がプリンスに与えちゃう!」というようなセリフを、映画「Michael/マイケル」の劇中にてマイケル・ジャクソンが発する場面があった。映画は映画だとして、その後のキャリアのさまざまな段階や節目において、直接的なコンタクトがあった出来事も含めて、互いが強く意識し合っていた時期があるのは確かだろう。ジェイムズ・ブラウンやUSA・フォー・アフリカ、“Bad”といった諸々や舞台裏での交流にまつわるエピソードはかなり広まったと思うので、ここでは特に触れない。
もちろん現代の目線からすれば、彼らがそれぞれに違った音楽性や持ち味、ヴィジョン、スタンスに基づいて活動していたことも後付け的によくわかるが、それぞれのレンジの広さのなかで意図せずして重なる部分も決して少なくはなかった。それもこれも、同じ年にわりと近い場所で天才が2人も生まれた結果だからして、同じようにソウル/ファンクなどの黒人音楽を下地にポップ・フィールドに進出していった同い年の2人が(キャリアの差こそあれ)近いシーンで活動していたら、(本人たちも含めて)悪気なく比べてしまうのが人情というものかもしれない。
……などと、さんざん言われていることではあるものの、この2026年になって、マイケルとプリンス、そしてマドンナという58年生まれのアイコンたちがバリバリ現役の存在感を見せているというのはとても興味深い。として機能しているのは興味深い。往時よりもアイコンとしての神性を高めて殉教者のように聖人化されつつある気がしなくもないマイケルに対し、マドンナはニュー・アルバム『CONFESSIONS II』を世界のチャートのてっぺんに叩き込むなど、いまもこの世でガシガシとサヴァイヴし続けていて素晴らしい。
そしてプリンスである。殿下のファンからすれば、この3人は並び立つ存在として勝手に認識しているものだと思うが、客観的に広く世間一般で言えば認知や人気の点でマイケルやマドンナには敵わないのだろう。勝ち負けではないし上も下もない話であるにせよ、もう少しいろんな層や世代のリスナーに、マイケルも恐れたぐらい素晴らしいプリンスの音楽の良さが広まるといいなとも思ったりしなくもないわけだ。
で、プリンスである。このタイミングで彼の貴重な未発表音源を集めたアルバム『Timeless』が届けられた。未発表音源とかいう時点で多くの人にはハードルが高いのかもしれないが、仮にコアなファンが待望しているような『Parade』のスーパー・デラックス・エディションなどのスペシャルな宝物が登場しようとも、そのハードルの高さは変わるものではないから仕方ない。今回の『Timeless』は、デビュー前の77年に録音された“I Am You”から、最後のツアー〈Piano & A Microphone 2016〉からのライヴ録音まで、各時代に残された音源を10曲セレクトした編集盤である。
いつ聴いてもタイムレス
77年に録音された先述の“I Am You”は、後のザ・タイムを思わせるプレ・ミネアポリス・ファンク的な一曲で、まだファルセット・ヴォーカル縛りで歌っていた頃の瑞々しいプリンスを体感できる。デビュー作『For You』(78年)よりはそれに続いた初ヒット作『Prince』(79年)に近い躍動的な作りで、『Prince』といえば同時期にソウル・チャートで競い合っていたのがマイケルの『Off The Wall』でもあった。それに続く81年録音の“Tick Tick Bang”は、後に『Graffiti Bridge』(90年)で発表される“Tick, Tick, Bang”のプロトタイプとなるヴァージョン。既出版とはまったく異なるパンキッシュなニューウェイヴ調という一時期の殿下がよくやっていた性急なスタイルで、こうした聴き比べをできるのが未発表音源集を聴く楽しみのひとつでもあろう。既出曲の別ヴァージョンという意味では、順序は変わるが91年に録音された“With This Tear”で、これは世界的にブレイクする前のセリーヌ・ディオンに提供したホーリーなバラード曲の殿下歌唱版である。こうした『Originals』的な企画もまた聴いてみたいものだ。
85年の録音となる“Heaven”(スザンナ・メルヴォワンが参加)、そして89年録音の“I Wonder”もそれぞれの時代ならではの粘着ポップを聴かせていて、かねてから人気が高かった曲である(どこで?)。さらに95年録音のファンク・チューン“Stone”は、『Emancipation』(96年)に収録された“Soul Sanctuary”と同じ成り立ちで、サンドラ・セイント・ヴィクターのお蔵入りアルバムに入っていた曲をプリンスが申し出てリサイクルしたうちの一曲にあたる。そして、『Musicology』(2004年)に通じる2003年録音の“Calabama”(ジョン・ブラックウェルが演奏)、2007年録音の直情ロック・チューン“The Guilty Ones”、2012年の“Bestest Friend”に至るまで、プリンスの足取りを辿ることができる『Timeless』。そんなベタなタイトルの通り、彼の音楽は時代を余裕で超えて響くはずのなので、誰がいつ触れても構わないものではある。ただ、なるべく早く聴かないと、その頃にはまた膨大な初出音源が出てきているかも……。
プリンスの作品を一部紹介。
左から、90年作『Graffiti Bridge』(Paisley Park/Warner Bros.)、96年作『Emancipation』、2021年作『Welcome 2 America』(共にNPG/Legacy)
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今月のプリンスをめぐる関連作品たち
本文でも触れている映画「Michael/マイケル」のサントラ。直接プリンスとは関係ないものの、時代の流れを追って聴かせる構成は近いだけに『Timeless』と並べて楽しむのも可能だろう。何より、こちらの楽曲もタイムレスである。
今回『Timeless』でプリンス版が開陳された“With This Tear”だが、提供されたセリーヌ側のヴァージョンはこちらに収録。ウォルター・アファナシエフがアレンジした音は殿下版とは異なるものの、荘厳さや神々しさを纏った歌声は流石の説得力だ。
本人のアルバムがずっと廃盤なのでこのコンピを紹介。プリンスが“U”を提供したポーラ・アブドゥルの91年作『Spellbound』は、サンドラ・セイント・ヴィクターを含むファミリー・スタンドの全面制作。殿下とサンドラの縁はここからだった。
当時ワーナーとの契約を満了するために、プリンスが置き土産というよりは手切金のようなノリで世に出した未発表曲集。85〜96年の音源が無造作に並んでいてアルバムとしての妙味はない。その点で『Timeless』はちゃんとしてると思う。




