[不定期連載]プリンスの20XX年
LOVE 4EVER AND IT LIVES IN...

 いろいろあってしばらくリイシューの動きが停滞していたプリンス周辺だが、昨年末にワーナー時代の『Around The World In A Day』が40周年記念でデラックス化したのを皮切りに諸々の状況が整ったのか、今度はNPG/レガシー側のリイシュー・プロジェクト〈LOVE 4EVER〉シリーズも動きはじめた。もともと95〜2010年の作品が対象だとされていた同シリーズながら、今回リイシューされるのは〈HITnRUN〉と題された2015年の2タイトル。もっとも近過去にあたる時期の作品のストレート・リイシューながら今回はいずれも初のアナログLP化が実現し、CDも日本盤のみ高音質のBlu-spec CD2仕様での登場となる。

 このHITnRUN=ヒット&ランという言葉は〈当て逃げ〉や〈やり逃げ〉を意味するものだが、プリンス用語としては86年のツアー前に何度か行った単発ライヴ形式のことで、ライヴ当日に地元のラジオ局だけで開催を告知して数時間でチケットを売り切るという、そんなサプライズに近い手法を当時のマネージャーが〈ヒット&ラン〉と命名していたという。そこから考えれば、念入りに作る緻密なアルバムとは別軸の、(ヒップホップで言うところの)ミックステープ的な勢いとノリで量産していくシリーズとして設けられたのが〈HITnRUN〉であったと捉えることもできるかもしれない。それゆえに自由なアイデアで構築された2タイトルをここで改めてチェックしてみよう。


 

PRINCE 『HITnRUN Phase One』 NPG/ユニバーサル(2015)

 当初はジェイ・Zの主宰するTidalでの独占配信という形で始まり、その後に当時のユニバーサル経由でCDも出たシリーズ第1弾。前年に電撃和解したワーナーからソロの『Art Official Age』とサードアイガール『Plectrumelectrum』というアルバム2枚を久々にメジャー流通したものの、リリース方法についても模索していた様子が窺い知れる。

 それ以上に驚きだったのは作品の中身だ。『Art Official Age』のジャケを図案化したアートワークからもわかるように、同作を共同プロデュースしたジョシュア・ウェルトンとの体制を継続し、ソングライティング面でも二人の共作が中心。ジョシュアはサードアイガールのドラマーであるハンナ・ウェルトンの夫で、かつてファッティ・クーというユニットでメジャー経験もあったDJ/マルチ・ミュージシャンだが、妻の付き添いで出会ったプリンスと意気投合したという。

 ジュディス・ヒルがメインで歌う冒頭の“Million $ Show”から主役の演奏や歌の素材をジョシュアがエディットしたような質感で、“Shut This Down”や“Ain’t About 2 Stop”“X’s Face”のようにダブステップやトラップを取り込んだ重量級のビートメイクがキャッチーだ。“Ain’t About 2 Stop”で迎えたリタ・オラや“Like A Mack”でラップするカーリー・フライズ、リアン・ラ・ハヴァスの加工ヴォイスを用いた変幻自在チューン“Mr. Nelson”など後進を多数迎えた構成も異例だと言える。殿下らしいファンキーなアップを流麗にディスコ・ハウス化した“Fallinlove2nite”や重いギター・ロックの“Hardrocklover”など、極めてプリンスらしいキャッチーな局面も従来のプリンスらしさとは異なる何かが薫ってくるようでおもしろい。そう考えると、この〈Phase One〉はジョシュアの若いアイデアに舵取りを委ねること自体をコンセプトにして作られた一枚なのかもしれない。

関連盤を紹介。
左から、ファッティ・クーの2005年作『House Of Fatty Koo』(Columbia)、リアン・ラ・ハヴァスの2015年作『Blood』(Warner)

 

PRINCE 『HITnRUN Phase Two』 NPG/ユニバーサル(2015)

 こちらは〈Phase One〉のリリースからわずか3か月後の2015年末にTidalで配信を始めたシリーズ第2弾。2016年からはツアー来場者にCDを配布するという手法が取られたが、要望の多さもあって2016年5月からCDの一般流通も始まった。こちらはアフロヘアの自身を図案化したようなジャケの色調が示すように、いつもの独力での作業によってオーセンティックなプリンスらしさを提示してくれている。

 ただ、いつも以上に生のホーン隊を重用してトラディショナルなソウル/ファンク/ゴスペルなどのテイストが色濃くなっている理由は、警察の暴行で命を奪われたボルティモアの黒人青年に捧げるオープニングの“Baltimore”からも明白だろう。大らかなホーンズがスタックス感を増して響く“Rocknroll Loveaffair”(2012年のシングル曲)や単曲で2013年に配信されていた名曲“Groovy Potential”のように、主に10年代になって配信やライヴなどで披露していた曲が多く並ぶのも〈Phase One〉とは真逆だ。さらには、もともと80年代にヴァニティ6用に作っていた曲をアップデートした“Xtraloveable”もあれば、往年の“Kiss”や“Sexy Dancer”を演奏に組み入れた“Stare”もあったり、新旧の引き出しからテーマに沿う楽曲を取り出してきたような雰囲気もある。

 なお、ソウル作法のスロウ“When She Comes”は、2010年の録音作『Welcome 2 America』(2021年に公式リリース)に収録されていたほうが原曲。同作収録の“1,000 Light Years Away”はこの〈Phase Two〉にて“Black Muse”の一部になっていて、当時お蔵入りにした『Welcome 2 America』を継承している部分もあると考えれば、その意識は〈Phase Two〉全体のサウンドにも繋がっているのかもしれない。それにしてもレディシが声を重ねたラストの“Big City”は、いつ聴いてもまるで最後じゃないかのように響いてくる。

関連盤を紹介。
左から、レディシの2014年作『The Truth』(Verve)、プリンスの2021年作『Welcome 2 America』(NPG/Legacy)

 

関連盤を紹介!

LIV WARFIELD 『The Edge』 Leopard(2023)

NPGにソロ作も残したシンガーが兄のライアン・ウォーターズと制作した通算3作目。プリンスとの思い出を歌った“Edge”をはじめ、ファンクでロックな個性を全開にしている。NPGホーンズのトロンボーン奏者だったロイ・エイジーも参加。

 

PHILIP LASSITER 『Raw In Amsterdam』 Color Red/Pヴァイン(2024)

NPGホーンズ構成員のなかでも精力的に作品を重ねているトランペット奏者。このライヴ盤では殿下吹奏楽部の先輩であるキャンディ・ダルファーも迎えて痛快なトリビュート・ファンク“Purple”を聴かせ、全編を小気味良く聴かせる。

 

JUDITH HILL 『Letters From A Black Widow』 Regime(2024)

マイケル・ジャクソンとプリンスの双方に見い出された才人だが、表題の〈A Black Widow〉とはそんな経歴にまつわる誹謗中傷へのアンサーだそう。NPG時代よりも己の志向をディープに追求した濃厚な本作では、独自のソウル世界へ到達している。