田中亮太「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の楽曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。先週、危険な状態にあるとお伝えしたラッパーのDMXが、4月9日に亡くなりました。ご冥福をお祈りします。彼の功績については天野くんが追悼コラムを執筆したので、ぜひそちらを読んでみてください」

天野龍太郎「DMXって、僕の世代にとってはヒーローなんですよ。本当に残念です。今年は新作のリリースを予定していたそうですし、これから生前に録っていた楽曲が発表されていくと思うので、引き続きXの音楽を聴いていこうと思っています。ちょうど本日4月10日、スウィズ・ビーツとフレンチ・モンタナとの新曲“Been To War”がリリースされました」

田中「DMXのハードコアでスリリングなラップは、やっぱりめちゃくちゃかっこいいですね。他に話題だったのは、〈FUJI ROCK FESTIVAL ’21〉のラインナップが公開されたことでしょうか」

天野「今年は洋楽アーティストが不在ですから、洋楽連載の〈PSN〉としては語れることがあんまりないです。でも、一歩前進ですね。ヘッドライナーはRADWIMPS、King Gnu、電気グルーヴの3組。詳しくはオフィシャルサイトをご確認ください。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

 

Lucy Dacus “Hot & Heavy”
Song Of The Week

天野〈SOTW〉はルーシー・デイカスの“Hot & Heavy”! ボーイジーニアス(boygenius)としての活動でも知られる彼女は、米リッチモンド出身のシンガー・ソングライター。前シングル“Thumbs”も〈PSN〉で取り上げました。いや~、最近のルーシーはきてますね!」

田中「以前からソングライティングの才能はずば抜けていると思っていましたが、プロダクションやアレンジが巧みになったのか、曲としてのパワーが増している印象。この“Hot & Heavy”は、ドローン/アンビエント的なサウンドだった“Thumbs”から一転、推進力にあふれるロック・チューンに仕上がっています。力強いビートとセンチメンタルなピアノの音色は、ブルース・スプリングスティーンみたいです」

天野「浮遊感のあるシンセサイザーのまろやかな音色や盛り上がっていくギターがたまりませんね。ナショナルやウォー・オン・ドラッグスといった、アメリカン・ロック更新しているバンドと共振していると思います。なお、この曲を収録したサード・アルバム『Home Video』は6月25日(金)にリリース。彼女の青春時代を振り返りつつ、いまの自分は人生のなかでどんな場所にいるのかを考えた作品なんだそうです」

田中「“Hot & Heavy”にも、郷愁の念が色濃く出ています。〈かつてスウィートだったあなた/いまは群衆のなかにいる爆竹みたい〉というラインがいいですし、アメリカの世相を反映しているようにも思えますね。アルバムでは、フィービー・ブリジャーズとジュリアン・ベイカーというボーイジーニアスの2人も2曲で歌っているのだとか。楽しみですね!」

 

Rina Sawayama & Elton John “Chosen Family”

天野「これはすごいコラボレーション! イギリスの〈いま〉を代表するリナ・サワヤマと、同国のポップ・ミュージックを語るうえで欠かせない大ヴェテラン、エルトン・ジョンが共演した“Chosen Family”」

田中「リナ・サワヤマの堂々たる歌も、エルトン・ジョンの深みのあるヴォーカルもパワフルです。2人の歌が重なる瞬間は、感動的ですね。エルトン・ジョンのドラマティックなピアノも泣けます」

天野「曲名の〈選ばれた家族〉という言葉は、LGBTQ+のコミュニティーでは長く使われてきた言葉なんだそうです。“Chosen Family”は、カミング・アウトによって家族や友人のコミュニティーから追い出された人が新たに〈選ばれた家族〉へ愛と安らぎを見い出すことを歌っています。ゲイのミュージシャンが一般的ではなかった時代から活躍する〈クィア・アーティスト〉であるエルトン・ジョンが、サワヤマとこの曲を2021年のいま世に問うたことは、とても意味のあることだと思いますね」