配信での手軽な音楽の聴き方が一般的になった一方で、作品を高音質で体験することへの需要も高まっています。そこで、タワーレコードがこの連載〈SACDで聴く名盤〉を通しておすすめしているのがSACDです。今回取り上げるのは、“A面で恋をして”を筆頭に、大滝詠一さん・佐野元春さん・杉真理さんによる名曲が詰まった『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』(82年)。本作の〈40th Anniversary Edition〉のSACDについて、音楽評論家の宮子和眞さんがLPなど他のフォーマットと聴き比べながら綴ってくれました。 *Mikiki編集部
『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』のSACDを待っていた
これを待っていた、あるいは、これも待っていた、という方は少なくないんじゃないだろうか。大滝詠一・杉真理・佐野元春の3人による『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』の、SACD。
オリジナルリリースから40周年を迎えた『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』は、さる3月にハイレゾ音源を含むボックスセットや2枚組のLPが出され、通常のCDを含めた最新リマスターのヴァリエイションを楽しめるようになった。1枚のアルバムを様々なフォーマットで聴き比べるのはいつだって楽しい体験だし、大滝作品としては昨年、『A LONG VACATION』の40周年リイシューによって僕たちは至上の喜びを体験している。今回の『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』でも、昨年と同様の新しいリスニング体験を得られるようになったというわけだ。
主役3人の声のツヤが格段に増した
今回のSACDのいちばんの魅力は、主役の3人の声のツヤが格段に増していること、そこだと感じている。オープニングの“A面で恋をして”が始まって、大滝、杉、佐野、と歌詞が歌い継がれていって。3人それぞれの歌声が立ち現れる度に、通常のCDで聴くよりもずっと艶やかな3人の声に驚かされる。奥行きが増し、広がりが自由になり、輪郭がより際立つような、そんなヴォーカルの響き。
もちろん、それぞれのソロの楽曲においても、声の表情が豊かになった様子は顕著に見て取ることができる。3人がそれぞれに曲を持ち寄って、それぞれの持ち味を聴かせるアルバム、という以上に、全編を通しての一体感とか、アルバムのコンセプトの豊かさみたいなものが明らかになっているのだ、そのヴォーカルのニュアンスの深さによって。
3人の歌を支える演奏やアレンジにも、通常のCDとは違う実在感が現れる場面は少なくない。佐野による“彼女はデリケート”の冒頭は、本当に空港にいるような人々のざわめきが露わになっているし。杉の“ガールフレンド”では、序盤のピアノや間奏のアコースティックギターが麗しく響く。〈大滝サイド〉においても、ストリングスやリードギターの存在は通常のCDよりグンと迫力を増している。