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コラム

ビビオ(Bibio)『BIB10』人間味豊かな音使いと繊細な歌唱で自身の節目を祝福する、記念すべき10枚目のアルバム

©Matt Peers

みずからの節目を自身の音で祝福する記念すべき10枚目のアルバム――人間味豊かな音使いと繊細なヴォーカルで織り成される美しいマイルストーンがここに完成した!

 「それぞれのアルバムのコントラストが好きなんだ。ひとつのアルバムを仕上げると、次は何か別のことをしたくなる」。

 かつて在籍したマッシュでのアルバム3枚における変化はグラデーション的なものだった気がしなくもないが、ワープ移籍後の6枚においては本人が語る通りのコントラストを描いてきたビビオことスティーブン・ウィルキンソン。その足取りはまさに彼が自由に音楽性を拡張してきたステップの歴史に他ならないが、そんななかでこのたびリリースされたのが10枚目のオリジナル・フル・アルバム『BIB10』である。

BIBIO 『BIB10』 Warp/BEAT(2022)

 前作にあたる『Ribbons』は2019年の作品。その3年の間にはEP『Sleep On The Wing』(2020年)などもあったが、幸か不幸かその時期がコロナ禍に重なったことは良くも悪くもムード/コントラストの切り替えには打ってつけだったのかもしれない。〈オーガニックでウッディなサウンド〉と本人が形容するその『Ribbons』はギターやマンドリンの響きを柔らく編み上げたトラッド・フォーク色の濃い作風を見せていたわけだが、今回の『BIB10』を作るにあたって本人がめざしたのはシンセやドラムマシーン、エレキ・ギターなどを用いた作品だったそう。

 「今回はより滑らかで光沢のあるサウンドをめざした。でもプログラムされた隙のなさとは違う。僕がスタジオで生み出す作品は主に60年代、70年代、80年代の作品がそれぞれ個性を放っていた時代からインスピレーションを得ている。人間性をアイロンで伸ばさずにより滑らかなサウンドを表現する、というのは初期の段階から信念のひとつだった」。

 その試みが成功していることはアルバムを聴き進めれば明白になってくる、とはいえ一聴して感じられたのは、前々作『A Mineral Love』(2016年)の感触だ。そこでのビビオはオンラーのように都会的なソウル/ブラック・コンテンポラリーの情緒に接近していて、当時のリファレンスとしてアレクサンダー・オニールなどの楽曲を挙げていたものだった。その志向は今作にも脈々と息づいていて、それが顕著なのはオープニングの幻想的な奔流“Off Goes The Light”に続く2曲目の“Potion”だろう。本人によると〈プリンスの『Prince』から特に影響を受けている〉そうだが、チープなドラムマシーンの音色やパターンは後期マーヴィン・ゲイからハッシュ・サウンドへと至る80sのそれで、本人の甘酸っぱい歌唱と陰影を成している。

 同曲からもわかるように、ビビオ自身がみずからのヴォーカルをより重要なパーツとして導入しているのも大きい。穏やかなソフト・ロック調の“Rain And Shine”や快いブラジル風味も織り交ぜた“Cinnamon Cinematic”、フォーキーな“Phonograph”のようなギター主導曲など、半数もの楽曲で彼自身の素朴な歌声が印象的に活用されている。そのトライを後押ししたのは作中において2曲に迎えたオリヴィエ・セントルイスの存在だったそうだ。

 「オリヴィエからは多大なインスピレーションを受けた。まだ試したことがないことにチャレンジしてみたし、これほど自分をヴォーカリストとして前面に出したことも初めてだった。僕にとって歌うことは努力を伴う行為だったけど、歌を他の楽器のように捉えてみたら、もっと発展させ、改良していけるようになった。今作ではこれまで以上にヴォーカルに力を尽くしている」。

 ソウルフルな歌声を誇るオリヴィエとビビオは先述の『A Mineral Love』で邂逅したわけで、その意味でも前々作からのラインが重要なのは間違いない。そんな彼が起用された2曲のうち“S.O.L.”はディスコ風のベースラインに80年代NYサウンドやフュージョン風の意匠が映えた小気味良いアップに仕上がっている。

 「当時よりも近代的な設備を用いて、自分がイメージする70年代のディスコ・レコードみたいな感じにしたかった。楽器とドラムは生の演奏で正当なディスコ・トラックを作ってみたいとかねてから思っていたんだ。だから“S.O.L.”が陽の目を見ることができてとても誇りに思っている」。

 もちろん〈歌のアルバム〉というわけではなく多層的にあしらわれたギターも印象的で美しい。総合的に見れば意外なコントラストもあり、グラデーションでのビビオらしさもある高品質な作品、という形容が適切なようだ。

 「10枚目というのはマイルストーンと言えるアルバム。だからパーティーのような賑やかな作品にしたかった。夢心地でメランコリーな場面もあるけど、このアルバムにはたくさんの楽しさと遊び心がある。人々が顔を上げ、これらの曲に合わせて踊ってくれることを願っているよ」。

ビビオの作品。
左から、2005年作『Fi』、2006年作『Hand Cranked』、2009年作『Vignetting The Compost』(すべてMush/Warp)、2009年作『Ambivalence Avenue』、2010年作『Mind Bokeh』、2013年作『Silver Wilkinson』、2016年作『A Mineral Love』、2017年作『Phantom Brickworks』、2019年作『Ribbons』、2020年のEP『Sleep On The Wing』(すべてWarp)

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