数多くのユニットと名義を併用してきたレジェンドが、ついに本名で陽光を浴びる!!
「これまでに長い間いろんな名前で活動してきたけど、だんだん複雑になってきたなと思って。もう複雑なアプローチはやめて、すべてを自分の名前でリリースすることにしたんだ。名前を統一することで、より幅広い音楽を送り出していくことができるんじゃないかと思ってる。名義に縛られず、好きな要素を自由に入れて、いろいろな音楽を作ることができるからね」。
グローバル・コミュニケーションやハーモニック313、アフリカ・ハイテックなど、作品のカラーに応じて数多の名義を使い分け、90年代初頭から数え切れないほどの音源を残してきたマーク・プリチャードが、初の本人名義によるオリジナル・アルバム『Under The Sun』を完成させた。これまではその時々のトレンドにも敏感に呼応した作風がトレードマークでもあった彼だが、今回はレトロな趣を備え、それでいて古臭さを感じさせず、時代やジャンルでの分類を拒むように普遍性と多様性を湛えた楽曲が並んでいる。
「ミュージシャンであれば誰もがタイムレスな作品を作りたいと願っているだろうね。20年間もずっと聴かれ続けるような作品を作ることはゴールだと思う。でも、それは20年後にわかることであって、いまはわからない。俺自身がここで作りたかったのは、感情的なもの。そして、アルバムとして聴きたいと思える作品だった。どのトラックもスキップすることなく、最初から最後までが一つの旅のようなアルバムを作りたかったんだ。自分が好んでよく聴く60、70、80年代のアルバムのようにね」。
抒情的なシンセがゆったりと流れていく先行トラック“Sad Alron”を耳にすれば、グローバル・コミュニケーションへの回帰と早合点するかもしれないが、実際にはビビオの甘美なヴォーカルを配したポップな“Give It Your Choir”、トム・ヨークがムーディーなメロディーをなぞっていく“Beautiful People”、「〈こんなに美しい曲を書いてくれてありがとう〉とまで言ってくれた」というフォーク・シンガーのリンダ・パーハクスを迎えた“You Wash My Soul”、その他にもジュークの片鱗やメロトロンによるドラマティックな味付け、サイケデリックなアレンジなど作中にはいくつものテクスチャーが用意されている。刻一刻と移ろう情景のなか、柔らかな音響がアルバムの世界へと没入することを後押ししてくれるだろう。
「説明するのが難しいけど、今回は自分の捕らえたいこだわりのサウンドがあった。そのこだわりを実現したいがために、マスタリングとミキシングにはすごく時間がかかるんだ。今回自分が欲しかったのは、明るすぎない、ラウドすぎない、でもディープなサウンド。深いとはいえ、押し迫ってくるような質感にはしたくなかった」。
マークにとって本作は「大きなゴールの一つ」だという。そんな発言に見合ったアルバムが、ワープ、ひいてはテクノ界にとっても屈指の名作として、ここに誕生した。