Page 2 / 3 1ページ目から読む

思ったことを貫き通して表現する

キングギドラ 『Raising Hell』 ARIOLA JAPAN(2022)

 ランDMCのクラシック・アルバムそのままの曲名“Raising Hell”はランDMC、引いてはヒップホップ文化への彼らなりのオマージュ。「いまの世の中の混沌を地獄に例えて、そこからどう立ち上がるか」(K Dub Shine)というところからそのタイトルに行き着いたんだとか。異形にすら届くヘヴィーさと貫禄を放つビートとラップは、まさしくキングギドラとしか言いようのない形で現実世界の混乱を映す。

 「いまは世の中のバランスが乱れてて、いろんなものが過度になりすぎてる。バランスを無視してあっちだこっちだってなればそりゃ混沌とするよね」(DJ Oasis)。

 「いろんな意味でポリティカルコレクトネスが世の中を見張ってて、そこから少しでも逸脱するとすぐ〈ヘイトだ!〉と集中的に攻撃されるし、キャンセルカルチャーが行き過ぎてる。萎縮して言いたいことも言えない、思うことすらいけないんだぐらいになっていくと、アーティストの表現の自由が狭められて、世の中つまんなくなるし、そこに分断が生まれてお互い攻撃し合うことで誰が得すんのかってことを言いたかった」(K Dub Shine)。

 「もちろんコンプライアンスやポリコレは一定のレヴェルで必要なものだけど、何でもかんでもそこにブチ込んだらそれはただの言論封殺だし、自分以外にノーって言われても声を上げることはすげえ大切。この2人もTwitterでよく燃えてますけど(笑)、思ったことを貫き通してそれをちゃんと表現していくことがいちばんヒップホップな行為だから」(Zeebra)。

 さらにOasisが制作を担ったビート面では、ギターで参加したSUGIZOの存在も大きかったと3人は口を揃える。果たして、楽曲は「ハイブリッド」な仕上がりに。

 「前にK Dubのアルバムでも弾いてもらったことがあるから完成のイメージは想像できたけど、(SUGIZOが)想像出来ない爆発力を演出してくれた。自分のビートだけではこの形にならなかったし、聴きやすいラップが増えてるなか、いい意味で尖ってる。やっぱりギドラだね、来た!って思ってもらえるいちばんいい形になった」(DJ Oasis)。

 キングギドラがキングギドラたる所以は、世の中やヒップホップの趨勢にもおもねることなく対峙した“Raising Hell”で明らか。長いキャリアを重ねてなお、彼らが音と言葉の矛を収めることはない。

 「いろんなスタイルがあっていいし、パーティー・チューンを否定する気は一切ないけど、こういうものが存在できなかったらそれはヒップホップの文化ではないと俺は思ってる」(Zeebra)。

 「日本のヒップホップがいろんなものを取り込んで肥大化して、もともとあったヒップホップの要素が薄まってったと俺は感じてる。それをヒップホップに引き戻すのが俺らの使命。荒んだ環境からいい環境に行きたいとか、更生してまともになりたいとか、そういう意識こそがヒップホップをヒップホップたらしめたもので、それを持ったものがヒップホップであってほしいと俺は思うのね。それを無視して、新しいことやればヒップホップだと思い込んでるような人たちにはここで教えてあげられたらいいかなと思ってる」(K Dub Shine)。

 その意味で、今回のシングルはあくまでも序の口。Zeebraがキングギドラのこの先についてささやかなヒントをくれた。

 「2002年はよくわかんないものも含めてヒップホップみたいに言われてバブってたから、そこにちゃんとヒップホップを提示しなきゃいけないっていう使命感があった。今回もこれだけでは終わんないよ。〈そういうことまですんの?〉ってことまで用意してるんで、楽しみにギドラの掌で踊らされてください」(Zeebra)。

PERIMETRONデザインの新装スリーヴで再流通されたキングギドラの2002年作『最終兵器』(DefSTAR)

関連盤を紹介。
左から、ランDMCの86年作『Raising Hell』(Profile)、SUGIZOの2017年作『ONENESS M』(ユニバーサル)、デ・ラ・ソウルの91年作『De La Soul Is Dead』(Tommy Boy)