ものづくりって楽しいな――新世代を招いたラップ曲から80年代サウンド、パワー・ポップ……色鮮やかな5曲が示した、4人の奔放すぎるクリエイティヴィティー!

 2021年12月にアルバム『effector』を発表し、翌年5月から全国ツアーを開催。夏フェスなどに出演する一方、配信シングルをコンスタントにリリースするなど、充実した活動を継続してきたandrop。約1年のインターヴァルで届けられた11作目のアルバム『fab』は、2022年の活動を総括すると同時に、このバンドのカラフルな音楽性を体感できる作品となった。

androp 『fab』 SPACE SHOWER(2022)

 「『fab』というタイトルには〈ものづくり(Fabrication)〉〈楽しい(Fabulous)〉というふたつの意味があって。実際、楽しく制作していたし、すごくいいものが出来たという手応えがありますね」(内澤崇仁、ヴォーカル/ギター)。

 「方向性を決めず、そのときにやりたいことに向かい合った」(内澤)という本作の起点になったのは、ネオ・ソウルとギター・ロックが絡み合う2022年第1弾シングル“Tokio Stranger”。2022年の初め頃に制作されたこの曲には、コロナ禍における心境の変化が反映されている。

 「ずっと耐え続けてきたけれど、〈そろそろ変えていかないとな〉と思いはじめて。〈闇を切り裂け 笑い飛ばせ〉という歌詞にあるように、受動的ではなく、能動的になるべきだというメッセージを、この曲では伝えたかったんです」(内澤)。

 「前作を出した直後に内澤くんが作ったデモを聴いたとき、〈この曲は2022年の一発目に相応しいな〉と思いましたね。内澤くん自身もラップしてるんですが、制作中から〈ラッパーとコラボするのもおもしろいよね〉というアイデアが出ていて」(佐藤拓也、ギター/キーボード)。

 アルバム『fab』の1曲目は、ODD Foot WorksからTondenheyとPecori、鋭児から御厨響一がフィーチャーされ、前述のシングル“Tokio Stranger”をヴァージョン・アップした“Neo Tokio Stranger” 。Tondenheyがリアレンジしたサウンドに、Pecoriと御厨のラップが混ざり、さらなる強度と熱量が加わっている。

 「響一は、彼がバンドを始める前からの知り合いで、弟みたいに可愛がってたんです。いつの間にか鋭児を結成して、しかもすごくいいバンドで。内澤くんから〈鋭児ってバンド、おもしろいよ〉と言われたときは、〈なんで知ってるの?〉って(笑)」(佐藤)。

 「御厨くんはステージ上で発するパワーもすごいし、普段の生活でもパッションがある人なんですよね。ODD Foot Worksの2人も以前からの知り合いですし、バンドも独特のミクスチャー感があって、すごいセンスだなと思ってました。レコーディングでは歌詞を決めず、ラップをフリースタイルでやってもらったんですけど、めちゃくちゃ良くて。エディットには3日かかりましたけど(笑)」(内澤)。

 2曲目の“Ravel”は、近年のトレンドと言える80年代シティー・ポップのテイストを織り込んだポップチューン。曲名の由来は、フランスの作曲家、モーリス・ラヴェルと〈Unravel(ほどく)〉を意識したダブル・ミーニング。歌のテーマは〈揺れ動く価値観〉だという。

 「いまは新旧の価値観がせめぎ合っている印象があって。たとえばハラスメントの問題やセクシャリティーの多様性もそうですけど、戸惑ったり、考えたりしながら生きている人がほとんどだと思うんですよね。結論を出すわけではなく、そういう状況を曲にしたくて」(内澤)。

 「80年代的なサウンドにはメンバー全員、以前から興味がありました。もともと山下達郎さんも聴いていたし、80年代のテイストを取り入れているThe 1975やウィークエンドも好きなんですよ。“Ravel”ではandropのフィルターを通して表現できたと思います」(佐藤)。

 さらに穏やかなメロディーとオーガニックな音像が響き合う夏ソング“SummerDay”、90年代パワー・ポップ直系の“September”も収められ、多彩なスタイルに挑んだクロスオーヴァーな作品に仕上がっている。

 「“SummerDay”は夏フェスに向けて作ったところもありますね。世の中が動きはじめた時期だったし、そういうときに自分たちと出会ってくれた人たちを祝福したくて。“September”のテーマは、思春期の頃に感じていた〈行動するかどうかで、自分の状況は大きく変わる〉ということ。一線をどう超えるか?についての原体験をパワー・ポップで表現しました」(内澤)。

 現在も新たな作品を制作中。「楽曲もライヴも、自分たちがやりたいことをどんどんやっていきたい」(佐藤)というandropは、2023年以降も奔放なクリエイティヴィティーを発揮してくれそうだ。

左から、andropの2021年作『effector』(SPACE SHOWER)、内澤崇仁が楽曲提供したDa-iCEの2022年作『REVERSi』(avex trax)

左から、ODD Foot Worksの2022年作『Master Work』(MIYAKE Inc.)、鋭児の2021年のシングル『連理』(To U Music Inc.)