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蜃気楼のように姿を変えるもの

 “Mirage Op.1”の無機質で切ないオートチューンを剥ぎ取った先に現れるYONCE、長澤まさみの真に迫る歌声。その生々しく、胸に迫る響きは、ペトロールズの長岡亮介(ギター)やOKAMOTO'Sのハマ・オカモト(ベース)、WONKの荒田洸(ドラムス)をはじめ、ストリングス、ホーン隊を含む総勢11名から成るMirage Collectiveの演奏と共に、この主題歌へ躍動感をもたらしている。

 「Mirage Collectiveの面々は、いままで活動してきたなかで出会った方々ですね。ベースのハマくんに関しては、彼が関わるプロジェクトに誘ってもらうことはあったんですけど、こちらからお願いしたことはなくて。今回、彼の得意とするソウル・ナンバーが出来たので、自分のプロジェクトに初参加していただく絶好の機会だなと思い、声をかけました。バンドで録った〈Collective Version〉に関しては、自分もMPCで参加しつつ、ドラムは誰かに委ねようと考えて、WONKの荒田くんにお願いしました。直接面識はなかったんですけど、プロデューサー的な視点も持ち合わせた方なので、自分が意図するものを上手く汲み取ってもらえましたね」(STUTS)。

 Mirage Collectiveのメタモルフォーゼは、ドラマ第8話でオンエアされた“Mirage Op.5 - tofubeats Remix (feat.長澤まさみ)”をはじめ、外部リミキサーによってさらに加速している。

 「『Orbit』にも参加してもらったtofubeatsさんのリミックスは、曲中でどんどんドラム・パターンが変わっていく作りで、気合いを感じましたね。SUMINさんもヴォーカリストとして参加してもらった2018年の『Contrast』ぶりにオファーしました。彼女は韓国でソングライター/トラックメイカーとしてBTSを手掛けたり、マルチに活躍されているので、今回は別の面が見られた。おふたりとも原曲からコードを変えていたところが興味深かったです。そして、オマーSの登場は唐突だったかもしれないですけど(笑)、今回のプロジェクトでは、ダンス・ミュージックのリミックスを作りたいというスタッフのアイデアもあり、僕が好きなダンス・ミュージックのプロデューサーがこの曲をどう仕上げてくれるのかに興味があったんです」(STUTS)。

 そして、変貌を遂げつつ、露わになってゆくMirage Collectiveの核心部分。それはYONCEと共に歌詞を手掛けたbutajiの言葉が物語っている。

 「ひとつの真実が提示されてると思いきや、それはひとつの側面に過ぎないというか。ぱっと見えてるものだけで何かを判断することの愚かさを見据えることが、表現において大事だと思うんです。でも、その愚かさを指摘せず、そのまま受け入れた表現が蔓延しているので、そういう風潮に対するカウンターになればいいなという気持ちで作詞には臨みましたね」(butaji)。

 「YONCEくんの〈Can't Stop The Fire〉という歌詞から炎が揺れるイメージが浮かんで、蜃気楼=〈Mirage〉という言葉が出てきた。butajiさんが歌詞に込めた想い、ドラマの進行と共に曲の様相が変わっていくコンセプト、それぞれが別のところで活動しているメンバーがMirage Collectiveとして集まってまた散っていくというイメージ、このプロジェクトにまつわるいろんなことが結果的に〈Mirage〉という言葉に集約されていると思います」(STUTS)。

左から、butajiの2021年作『RIGHT TIME』(SPACE SHOWER)、Suchmosの2019年作『THE ANYMAL』(F.C.L.S./キューン)、田島貴男&長岡亮介の2019年のライヴ盤『SESSIONS』(ビクター)、2023年1月25日にリリースされるOKAMOTO'Sのニュー・アルバム『Flowers』(ARIOLA JAPAN)、WONKの2022年作『artless』(ユニバーサル)

左から、tofubeatsの2022年作『REFLECTION』(unBORDE)、大友良英による『エルピス-希望、あるいは災い- オリジナル・サウンドトラック』(コロムビア)、SUMIN & slomの2021年作『MINISERIES』(EMA)、オマーSの2022年作『Can't Change』(FXHE)