ジョーダン・ラカイが新作『The Loop』を発表した。

これまで彼は、オーストラリア在住時に出した2枚のEPをはじめとして、2015年の英ロンドンに移住してからは4枚のアルバムをリリース。2021年に発表した前作『What We Call Life』は、制作のタイミング的にパンデミックやブラック・ライヴズ・マターについての思いを歌詞に反映させ、バンド演奏をベースにしながらもミニマルな音に乗せて歌った思慮深いアルバムだった。

が、今回の新作はオーケストラを含めた大人数のバンドで録音。レーベルも2022年のEP『Bruises』を最後にニンジャ・チューンから英デッカに移籍し、プライベートでは父親になるなど、かつてないほどの変化を感じさせる。全曲がオリジナルとなる『The Loop』はシネマティックでもあり、プロデュース能力に長けたシンガー/ソングライターである彼の才気が迸る。今年10月にはロイヤル・アルバート・ホールで単独公演を行うことも決定。

そんなジョーダン・ラカイが、ロンドン郊外にある自宅からZoom越しでインタビューに応じてくれた。

※このインタビューは2024年5月25日(土)に発行予定の「bounce  vol.486」に掲載される記事の拡大版です

JORDAN RAKEI 『The Loop』 Decca/ユニバーサル(2024)

 

幸せの光に照らされた新章の始まり

――今回の新作『The Loop』は3年ぶりのアルバムですが、お子さんが生まれるなど私生活における変化が反映されているようです。コンセプトは〈希望〉で、アルバムのタイトルは、〈子供が成長し、その人がまた子供を産んで……〉という生命のサイクルを意味しているそうですね。

「まったくその通りで、子供が生まれた時に自分にとっての幸せの光が見えた。〈希望〉が見つかったんだ。そこで人生や音楽、あと自分の親や子供に対して、いろんな新しい見方が開けた。自分にとっての新たなチャプターが始まったという感覚。それを子供の誕生によって気付かされたという感じかな」

――“Hopes And Dreams”では今あなたが言ったようなことが歌われていて、メランコリックな雰囲気のボーカルはこれまでと変わらないものの、声にすごく感情がこもっているように感じられます。

「いい質問だね。まさに以前は〈ただ歌っていた〉というか、ピッチを気にして、音を外さないように……といったようなことばかり考えていた。でも、今回のアルバムは曲ごとにストーリーがあって、“Hopes And Dreams”も、デリケートに静かに歌い始めて、途中でパワフルな感情を歌に反映させた。リリックに合わせて歌い方にも気を使うようになったんだ」

――おそらくリリックに関してだと思いますが、今作ではニック・ケイヴがジャーナリストのショーン・オヘイガンと対談した本「Faith, Hope And Carnage」(2022年)にインスパイアされたとも聞きました。

「そうなんだ。あの本の中で、ニック・ケイヴが歌詞を書く時にメタファーとか言葉のまやかしみたいなものではなく、いかにダイレクトな言葉で書くかという話をしていて、その部分に影響を受けた。自分も言葉の綾みたいなものにこだわりがちだったからね。

それでニックの場合どうするかっていうと、座って、とにかく思いついた言葉を口に出して言う。ひとりでブツブツ言ってるように言葉を口に出すと。そうすることで自分の思いがフィルターを通したように研ぎ澄まされていく。それを今回実践してみたんだ。

人というのは不安だったり傷つきやすかったりして思っていても言えないようなことがあるけど、子供が思ったままのことをすぐ口に出してしまうような、そんな感覚だね」