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自分を愛せるように

SAM SMITH 『Gloria』 Capitol/ユニバーサル(2023)

 通算4作目にあたる『Gloria』は前作『Love Goes』から3年ぶりのアルバム(ちなみに、サムは初作からずっと3年スパンで次作を出している)。本人いわく現在のサム・スミスを忠実に反映した「創造的で眩しく、豪華で洗練された、予想外の、そして時にはスリリングでエッジの効いたサウンド」と「セックス、嘘、情熱、自己表現、不完全さに触れた歌詞」で構成されたアルバムとなっているそうだが、なかでも印象的なのは“Unholy”に先駆けた昨年4月のシングル“Love Me More”だろう。アルバムでもオープニングを飾るこの穏やかナンバーは〈自分を嫌いにならないように毎日努力している/でも近頃は前ほど辛くなくなってきた/前より自分を愛せるようになってきたのかも〉と心境の変化が歌われ、“Stay With Me”のMVをオマージュして街を歩くMVも現在の意識を示唆したグッとくる作りだった。

 同曲はジミー・ネイプスとスターゲイトとの共同プロデュース。デビュー前からの盟友ジミーはほぼ全曲にクレジットされ、“Too Good At Goodbyes”(2017年)や“Dancing With A Stranger”(2020年)で馴染みのスターゲイトも過去最多の5曲(+インタールード)を手掛けている。このタッグでの曲は“No God”や“Perfect”など内省的な表現の深みを纏ったスロウが中心だ。いつもの顔ぶれでいうと、壮麗なオーケストレーションでサムの美意識を共に編み上げてきたサイモン・ヘイルも多くの楽曲でストリングス・アレンジと指揮を担当し、同じくデビュー時から荘厳な音響/音像に貢献してきたエンジニアのスティーヴ・フィッツモーリスももちろん関わっていて、基本的な制作の体制はそう変わっていない部分もある。

 そうした馴染みのチームに対し、先述の“Unholy”を手掛けた面々も同じ座組みで他2曲をプロデュースしている。アコギをバックにナチュラルな歌唱を届けた“How To Cry”はオマール・フェディのカラーが出たと思しき一曲で、“Lose You”はウェットなメロディーが躍る哀愁のダンス・トラックだ。アップという意味では、以前にも“Promises”で組んだカルヴィン・ハリスがスターゲイトと共同で手掛けた軽快なディスコ・ポップ“I’m Not Here To Make Friends”も胸躍る仕上がりになっている。

 それ以外にも、ポップカーンらを手掛けるアンジュ・ブラックスが制作にタッチした“Gimme”はコフィーとジェシー・レイエズを迎えたダンスホール調のトラックで、アーシーなコフィーのフックが耳に残る出来映え。終盤には讃美歌のような“Gloria”をホーリーに響かせ、重鎮スティーヴ・マックが手掛けた本編ラストのロマンティックな“Who We Love”ではエド・シーランを迎えて歌を交わしている。

 資料によると『Gloria』は「さらに大人に成長し、暗い時期を乗り越えることができた」己の姿を投影したもので、サムは今作がリスナーの希望への灯になればいいとも語る。グラミーやブリット・アワードへのノミネートを経て“Unholy”はさらに大きな一曲になりそうだが、そこに代表される大胆さだけではない、率直でピュアな新しい表現にアルバムで触れてみてほしい。

サム・スミスの作品。
左から、2014年作『In The Lonely Hour』、2017年作『The Thrill Of It All』、2020年作『Love Goes』、2021年のライヴ盤『Love Goes: Live At Abbey Road Studios』(すべてCapitol)、2021年のサントラ『Dear Evan Hansen』(Interscope)

『Gloria』に参加したアーティストの作品を紹介。
左から、キム・ペトラスの2020年作『Clarity』(Bunhead)、コフィーの2022年作『Gifted』(Columbia)、ジェシー・レイエズの2022年作『Yessie』(Island)、エド・シーランの2021年作『=』(Asylum)、カルヴィン・ハリスの2022年作『Funk Wav Bounces Vol. 2』(Columbia)