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[ 緊急ワイド ]インディー・ポップ百景
10年代も半ばまで過ぎました。まだそんなこと言ってんの?という声もおありでしょうが、旬も流行も浅薄な理屈も時代のムードも超えた地平で響いてほしい音楽たちは、世界中から毎日のように登場しています!
YOUNG FATHERS
レフトフィールドなヒップホップだけやってても意味がない
ヤング・ファーザーズのニュー・アルバム『White Men Are Black Men Too』は、自分たちにまつわるあらゆる先入観を取り払い、何よりもポップ・ミュージックたることをめざしてきた、このグループの本当の姿があきらかになった傑作だ。
「俺たちは昔からポップ・ミュージックのファンなんだよね。で、優れたポップ・ミュージックを作るには無駄なものを省いていくべきだと考えている。だから今作のレコーディングは〈もっとはっきりさせよう。曖昧さを省こう〉とお互いに言って、それを意識しながら取り組んだよ。とにかく、できるだけシンプルにするようにね。本当に必要な相応しい音だけが残っているんだ」。
こうグレアム“G”ヘイスティングス(発言:以下同)が言うように、本作は極めてシンプルで、厳選された音が詰まった一枚だ。ただ同時に、彼らのディスコグラフィー中、ここまで豊かで、多岐に渡るジャンルを横断したカラフルな作品は過去にない。クラウトロックやアフロ・ミュージックに影響されたというスリリングなビート感や、エレクトロ的なアレンジ、ソウルのエレガントなメロディーまで、それらを自在にミックスしながら、本人たちの思う正しいポップスの形に集約。そういう意味でのシンプリシティーに貫かれた作品なのだ。アルバム後半のゴスペル・コーラスをフィーチャーした数曲に至っては、〈都市の聖歌〉とでも呼ぶべき普遍性を湛えている。アンダーグラウンド・ヒップホップ・グループというイメージは、もはや彼らのほんの一側面でしかない。
2008年より地元エジンバラを中心に活動してきたヤング・ファーザーズの、本作での飛躍に繋がる第一ステップとなったのが前作『Dead』だ。同アルバムで昨年のマーキュリー・プライズを受賞し、この3人組はアンダーグラウンドから一気に浮上することとなった。ただし、ここで手にした成功への切符は、当人たちにとって予想外ではなかったという。それも『White Men Are Black Men Too』を聴けば当然で、グループがめざす場所とメジャー・シーンはさほど遠くないからだ。
「マーキュリー・プライズはヤング・ファーザーズを知ってもらう絶好のチャンスだった。でもアーティスティックな面ではまったく関係がない。俺たちにはオリジナリティーがあって、他にこんなグループがいないことは、ずっと前からわかっていたからね」。
本作のタイトルはすでにUK本国でも議論の的となっているが、こういうポリティカルな姿勢、挑発や問題提議を厭わないメッセージ性の強さもまた、彼らの大きな武器である。そして自分たちがポップ・アーティストだからこそ、ポリティカルなメッセージを広く、強く、多くの人々に届けることができる――ヤング・ファーザーズはそんな信念に基づき創作活動を繰り広げているようだ。
「レコード店でちらりとこのタイトルを見て、ふと疑問に思ってもらうだけでもいいんだ。この世界は単純に白黒だけじゃなくて、もっといろいろなことが入り組んでいて、複雑で、みんな各々にいろいろな物語を抱えている。俺たちは聴く人、観る人を混乱させたい。なぜって人生というのは混乱続きなわけだからね。でも俺たちは単に政治的なグループってわけじゃない。あくまでも自分たちのことをポップ・ミュージック・グループだと思っている。ポップであることに背を向けて、アングラで左寄りなヒップホップをやっても意味がないし、自分たちの音楽をできるだけ多くの人に聴いてほしいからね。そうすることで、ポップ・ミュージックの意味自体を広げていけると思うんだ」。