©Edward Bishop

24年の時を越えて、ふたりがふたたび音を紡ぐ――フォーキーな生音と電子音を重ねながら、最先端のポップソングを創造してきたデュオが復活の理由を明かす!

もう若くないしね

 〈そうそう、ベンと私はエヴリシング・バット・ザ・ガールのニュー・アルバムを完成させたので、お知らせしておきます〉――トレイシー・ソーンが何の前触れもなく、まるで事の重大さをカモフラージュするかのようにさらりとツイートしたのは、昨年11月3日のこと。同時にベン・ワットも〈トレイシーと僕は〉と主語を置き換えて同じ文面の発信をし、エヴリシング・バット・ザ・ガール(以下EBTG)が24年ぶりに復活するという驚くべきニュースが世界を駆け巡った。

 思えば19歳のときに出会ってEBTGを結成して以来、公私にわたるパートナーとして共に歩んできたトレイシーとベン。いわゆるネオアコ的なスタイルに始まりながらも柔軟に変化を遂げ、のちにThe xxら多数の後輩に影響を及ぼすエレクトロニック・ソウルの境地に辿り着き、グローバルな成功を手にしたわけだが、ふたりの間に双子の娘が誕生したことを機に、10作目のアルバム『Temperamental』(99年)の発表から間もなく活動を休止。それからは子育ての傍らで各々ソロ・アーティスト兼著述家としてマイペースに作品を発表し続け、この間デュオ復活を考えたことは一度もなかったとトレイシーは話す。

 「最初の頃は、いずれEBTGの活動を再開するんだろうなとぼんやり思ってた。そうしたらベンは、すぐにDJ業やレーベル経営で新しいキャリアを確立し、私もソロ作品を作りはじめて、ふたりとも忙しくなって。それに家庭を築いていた私たちの場合、仕事だけは別々にするという生き方が合っていたというのもある。仕事も一緒にやるとなると、トゥーマッチっていうときもあるから(笑)」(トレイシー)。

 ではなぜいまになってカムバックが実現したのか? ベンに言わせれば、すべてはタイミングに起因するという。

 「まずパンデミックが起きて、仕事がすべてストップしてしまったことがある。しかも僕は自己免疫疾患を抱えているから(注:彼は92年に難病のチャーグ・ストラウス症候群に罹り、現在も後遺症が残る)家庭内でも隔離された状態で過ごした。それゆえにロックダウンは非常に辛い体験でね。いろんな規制が解除されたときにトレイシーと、〈さてどうする?〉って話をしたんだよ。各自の活動に戻るのか、それとも新しいことに挑戦するのか、とね。そうしたら彼女が、ふたりでまたコラボしようと提案してくれて、ちょうど子どもたちが独り立ちして日々の生活には大きな空白が生まれたから、〈いまやらなきゃいつやるんだ?〉という気持ちになった。ふたりとももう若くないしね(笑)」(ベン)。

 こうしてふたりは、子どもたち以外には誰にも告げずに曲作りに着手する。役割を限定せずにありったけのアイデアを分かち合い、できるかぎりオープンマインドを維持して。

 「そもそも〈EBTGの曲を作る〉という意識すらなかった。とりあえず3~4曲を作った時点で、スタジオでヴォーカルを録ったんだけど、トレイシーの声が乗った瞬間、EBTGの曲であることに疑いを挿む余地はなくなったよ。僕が書くコード進行なのか、アレンジなのか、何が関係しているのかよくわからない。でもそこにあの声が加わると、ベン・ワット&トレイシー・ソーンではなくEBTGになる。ふたりで曲を作ると自然に起きる化学反応の過程を改めて観察するのは、非常に興味深かったね。それに、年寄りが作るつまらない音楽になるんじゃないかという心配も杞憂で、聴こえてきたのは、すごくエネルギー値が高いフレッシュな音楽だった」(ベン)。

 「何が起きるか様子を見ようという軽いノリだったから自由で解放感があったと思うし、これは間違いなくEBTGなんだと実感したときはすごく興奮させられて、たくさんの可能性が開けたように感じたの。これなら悪くないアルバムが作れるかもって(笑)」(トレイシー)。