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©井出情児

 リンゴ・スターが参加したビートルズ・テイストの“Run To Me”も話題となった前作『I Found The Sun』から2年(この短いスパンで届けられたことにちょっとビックリしている)。まず反応したのは、ジョセフ・ウィリアムスが6曲で、デヴィッド・ペイチが4曲でソングライティングに関与するなど、TOTOメンバーが制作に深く絡んでいる事実について。数年前のこと、元メンバーの家族との間でややこしい訴訟案件が起き、TOTOの活動がままならなくなってしまったことがあった。しかしそいつになんとか片をつけ、ツアーで世界中を回れるようになったいま、ルークの心中は〈これから俺がTOTOの名を背負っていかなきゃならない〉といった思いで溢れているはず。そんな想像を巡らせながら本作と向き合いはじめたわけだが、前述のソング・クレジットからも察せられるように、いま彼はバンドとソロの創作エリアをきっちり区別する必要性をあまり感じていないのかもしれない、などと思えて仕方なかったのである。で、表題に目を転じてみて、改めて合点がいった。

 ここで彼が成し遂げようとしているのは、過去と未来、出会いと別れ、友と友、といったものを交錯させながら、受け手に鮮烈な印象を与える大きな物語を描き出すこと。そんな作品の原動力になっているのは、TOTOファミリーをはじめ、どんなことがあろうともいつだって傍にいてくれた仲間たちの良き橋渡し役でありたいという強い自覚に他ならない。例えば元トム・ぺティ&ハートブレイカーズのスタン・リンチが曲作りに加わった、ヘヴィーなギター・リフがカッコいい“Not My Kind Of People”や、ランディ・グッドラムとのコンビで書き上げた過去の名バラードに通じるメロウ・チューン“All Forevers Must End”あたりにも、思い立てば彼らとはすぐに交感し合えるのさ、というような喜びが感じられるし、急逝したジェフ・ポーカロの穴を埋めるべくTOTOの正式メンバーとなり、20年近く在籍したサイモン・フィリップスや、一時期ライヴ・サポートをしていたリーランド・スカラーらの参加からもそんな思いが読み取れよう。

 ソリッドなギターが縦横無尽に駆け回る冒頭“Far From Over”は、息子であるトレヴァー・ルカサーとのコラボ。70年代のスティーリー・ダンを彷彿とさせる洗練されたブギー・チューン“Burning Bridges”は掛け値なしのカッコよさ。往年のチープ・トリックにも通じるドライヴィンなロック・ナンバー“When I See You Again”やコールドプレイへのちょっとしたオマージュだというメロディアス・チューン“Someone”など、聴き進むにつれてルークのソロとTOTOのスタイルがいい具合に融合した曲の多さに気付く。資料を読むと、ルークが〈TOTOがもうスタジオ・アルバムを作ることはないと思われる〉というドキッとするような発言もある。それは、ひょっとしたらそうなるかもしれない、という可能性についての話かもしれないし、ストレートに受け止めて判断するのは難しいが、本作を聴く限り、気心知れた面々とこれからも変わらず親密なコミュニケーションが取るれたらそれでいいじゃないか、といった現在の心境を読み取れてしまう箇所がいくつもあって。とにかく、ソロとバンドの距離を詰めてみようとか、ひとつ垣根を取っ払ってしまおう、といった意識はどの楽曲のどの音にも見当たらない。自然体でやりたいことをやっているのだという空気が濃厚に漂っていること、それがこのアルバムの揺るぎない安定感に繋がっているといっていい。

 一発録りという選択肢によって随所で発生しているライヴ感は、ルークのフィジカル面が好調かつ健全であることを如実に伝えているし、バンドの活動も含めて、明日に向かって新たな弾みを付ける作品になったのは間違いない。4年ぶりのTOTO来日にじっとしていられない人には、ひと足早くリリースされたデヴィッドのキャリア初ソロ作『Forgotten Toys』と並べて食すれば、幸せな気持ちが倍増するはず。ウン、間違いない。 *桑原シロー

 


LIVE INFORMATION
TOTO 2023 ジャパン・ツアー
2023年7月10日(月)福岡サンパレスホテル&ホール
2023年7月12日(水)石川・金沢 本多の森ホール
2023年7月14日(金)愛知・名古屋国際会議場センチュリーホール
2023年7月15日(土)大阪・丸善インテックアリーナ大阪(大阪市中央体育館)
2023年7月17日(月・祝)広島・JMSアステールプラザ 大ホール
2023年7月19日(水)宮城・仙台サンプラザホール
2023年7月20日(木)岩手県民会館
2023年7月21日(金)東京・日本武道館
https://udo.jp/concert/TOTO2023

 

スティーヴ・ルカサーが客演した近年の作品。
左から、マーク・ラッティエリの2022年作『Deep: The Baritone Sessions Vol. 2』(Leopard)、リンゴ・スターの2021年作『Zoom In』(UMe)