これまでよりも良い曲を作るだけ
ジョー・ジャクソンを彷彿させる80sポップ風の佳曲“Home Again”も新鮮だ。
「まさに俺たちはジョー・ジャクソンっぽいベースラインを加えようとしたんだ(笑)。でも、80年代のポップとはまたちょっと違うんだよね。俺にとって、ジョー・ジャクソンはポップではない。彼はその領域を超えているし、だからこそ好きなんだ」。
“818”や“False Alarm”にはウィーザーやガイデッド・バイ・ヴォイシズといった90年代のパワー・ポップ感が溢れているように感じた。
「“False Alarm”は、ピクシーズやウィーザーのヴァイブがあるかも。でも、90sパワー・ポップって言葉は個人的に好きじゃない。言ってることはわかるよ。ああいうリフというか、それっぽいものには影響を受けていると思う。そういえば、最近ちょうど、あるラジオ番組のために〈自分を変えた曲〉っていうテーマのプレイリストを作ってたんだけどさ。とりあえず書き出してみた曲目を見て、自分がビルト・トゥ・スピルに影響を受けてることに気付いたんだ」。
シングルが何枚も切れそうなこのアルバム。すでに収録曲のミュージック・ビデオが5本も製作されているという。アルバムのリリースに先行して“100-99”“Old Man”のMVが公開済みだ。
「もともとのアイデアは、俺がこのアルバムのためにダウンタウン・フレッドっていうキャラクターの出てくる映画を作りたいと思っていたところから始まった。彼はラスベガスのシンガーで、安ホテルでカヴァー曲を歌っているが、自分のオリジナル曲を演ったことは一度もない。映画は、彼が〈自分らしく生きることとは何か〉を見つける旅を描くんだ。デイヴィッド・リンチの『ブルーベルベット』やヴィム・ヴェンダース『パリ、テキサス』なんかに影響を受けたよ。それを監督の2人に伝えたんだ」。
日常的に曲を作り続けており、「曲を作るプロセスを楽しむタイプ」というAHJにとって、究極のゴールは「これまでに書いたことのない、より良い曲を作ること」と言い切る。ソロ活動を続けたなかで育ってきたソングライターとしての自我が、予想外の多様性を孕みながら膨らんでいるのを『Melodies On Hiatus』では確認できるし、今後は楽曲提供で活躍の場を広げる未来もあるのかも……と予感させてくれる作品だ。
『Melodies On Hiatus』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
左から、ゴールドリンクの2019年作『Diaspora』(Squaaash Club)、アークティック・モンキーズの2022年作『The Car』(Domino)
アルバート・ハモンドJrが参加した近年の作品。
左から、オマー・アポロの2020年のミックステープ『Apolonio』(Warner)、ナタリー・インブルーリアの2021年作『Firebird』(BMG)