天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。今週はポップ・ミュージックのファンにとって、本当に辛い一週間でした。2月18日、アンドリュー・ウェザオールが亡くなったことが発表されました」

田中亮太「UKのダンス・カルチャーを象徴するような偉大なDJが、56歳という若さで逝ってしまいました。クラブ・カルチャーとロックとの橋渡しをし、常にアンダーグラウンドを選び続けてきたような彼の音楽家としての生き方にはものすごく影響を受けましたし、あまりにも悲しくてすぐに追悼記事を書いたんです」

天野「いい記事でした。ele-kingの野田努編集長が書いた追悼文も心のこもった名文で、読んでいてうるっときます。さらに今週はもう一人、若き才能が悲劇的な死を遂げました。2月19日、ブルックリン・ドリル・シーンを牽引してきたラッパー、ポップ・スモーク(Pop Smoke)が銃殺されました。彼はまだ20歳。ポップ・スモークの死は、ちょっとまだ受け入れられないでいます」

田中「特に天野くんはポップ・スモークに入れ込んでいましたからね。新作『Meet The Woo 2』をリリースしたばかりだったのに……。辛いことが続いていますが、〈PSN〉は平常運転でいきます。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から」

 

1. Yves Tumor “Gospel For A New Century”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉はイヴ・トゥモアの“Gospel For A New Century”! アクの強いエクスペリメンタル・ポップを生み出してきた彼は、いまの音楽シーンのなかで屈指の変わり者ですよね。2018年のアルバム『Safe In The Hands Of Love』も高く評価されました」

田中「多くの要素が複雑にコラージュされた先鋭的なサウンドでありながらも、不思議とポップに聴こえてしまう彼のセンスは、まさに独自のもの。彼の奇妙なファンクネスに、個人的にはプリンスを感じますね。この“Gospel For A New Century”は、これまで以上にダンサブルかつロック色が強いので、いっそう殿下化が進んでいるような……」

天野「パワフルかつ不穏さが漂うっているホーンの響きがめちゃくちゃ印象的。ソングライティングとプロダクションも洗練されていて、いままでの彼の作品と比べて格段に聴きやすくなっています。プロデューサーを務めたのは、スカイ・フェレイラやチャーリーXCXとの仕事で知られるジャスティン・ライセン。彼の貢献は大きい気がしますね」

田中「悪魔を思わせるいでたちで、艶めかしく歌い踊るミュージック・ビデオにも、彼の強烈なカリスマ性が映し出されています。あいかわらずちょっと怖いですけど(笑)。〈新世紀のための福音〉というタイトルも、彼が何かを引き受けた感じがしますし、今年はいっそう存在感を高めていくのかもしれません。ニュー・アルバム『Heaven To A Tortured Mind』は、4月3日 (金)にリリース!」

 

2. JPEGMAFIA “BALD!”

田中「2位はJPEGMAFIAの“BALD!”。意外にも彼自身の楽曲を〈PSN〉で取り上げるのは初めてですね。客演曲はちょくちょく紹介してたんですけど」

天野「彼のことを少し説明しておくと、米メリーランド州ボルチモア出身のラッパー/プロデューサーで、ノイズやアンビエント、インダストリアルといった、さまざまな音楽の要素を融合した前衛的なサウンドとポリティカルなリリックが特徴。以前から注目していましたが、特に2018年の『Veteran』と2019年の『All My Heroes Are Cornballs』という2作は、超ドープで最高でした」

田中「マイク(MIKE)やアール・スウェットシャツ(Earl Sweatshirt)、100ゲックス(100 gecs)なんかと並んで、いまのエクスぺリメンタル・ヒップホップを代表する存在ですよね。この“BALD!”もドラムンベース風のビートやトラップ的なスネア、ちょっとヴェイパーウェイヴっぽさがあるサイケデリックなシンセやグリッチ・ノイズなどがいびつに重なっていて、めちゃくちゃなサウンド。それが彼のラップの強さによって、ちゃんと完成された一曲になっているのが、たまらなくかっこいいです」

天野「〈はげ(bald)〉という曲名のとおり、〈レイ・アレンみたいだろ〉〈ドウェイン・ウェイド〉とNBA選手の名前を挙げて自分のはげ頭についてラップしながらボースティングをする、という不思議な一曲。〈おまえら、俺のリリックをGeniusに載せるんだろ/批評家のクソどもはそれを復唱するんだ〉というラインもおもしろい。とにかく魅力的な音楽家ですよね」

 

3. Tainy feat. Lauren Jauregui & C. Tangana “NADA”

天野「3位はタイニーとローレン・ハウレギ、セ・タンガナの3人による“NADA”。毎週ラテン・ポップの曲を連載にむりやりねじ込んで、ごめんなさい!」

田中「好きですよね(笑)。とはいえラテン・ポップはいまの音楽シーンで無視できない存在感を放っていますから、潮流を追い続けることは重要だと思います」

天野「でも、なかなかラテン・ポップ・ファンの輪が広がらない……。それはともかく、曲の話をすると、マルコ・マシス(Marco Masís)ことタイニーは、プエルトリコのプロデューサー/作曲家。去年の8月にも彼の曲を紹介しました。バッド・バニー(Bad Bunny)やJ・バルヴィン(J Balvin)を手掛けるレゲトン界のヒットメイカーです」

田中「この曲に参加しているローレンは、言わずと知れたアメリカのガール・グループ、フィフス・ハーモニー(Fifth Harmony)のメンバーですよね。グループは活動休止中で、おのおのがソロ活動に励んでいる期間です。で、セ・タンガナはスペインのマドリード出身のラッパー。同地ではかなり売れているようです」

天野「それにしても、プエルトリコのプロデューサー × キューバ系アメリカ人シンガー × スペインのラッパーという3者がコラボレーションした“NADA”の多国籍感はすごい! まさに2020年のグローバル・ポップというか。ポップ・ミュージックのダイナミックなうねりを感じます。タイニーのビート、ローレンの艶っぽい歌、セ・タンガナの気だるくセクシーなラップと、どれを取っても最高! この曲はタイニーのEP『The Kids That Grew Up On Reggaeton: Neon Tapes』からのシングルということで、そちらも楽しみです」

 

4. The Strokes “Bad Decisions”

天野「4位はストロークスの“Bad Decisions”。ストロークスは先週に続いての登場ですね

田中「アナログ・シンセサイザーがビヨビヨ鳴っていたビートレスのシングル“At The Door”に驚かされて、僕たちは〈次はどうくるの?〉と訝しんでいたわけです。そんなところにこんなさわやかなギター・ロック・ナンバーを放り込んでくるなんて(笑)。何を考えているのか、まったく読めない……」

天野「実はなんにも考えてなかったりして。というわけで、この曲も4月10日(金)にリリースされる新作『The New Abnormal』からのシングルです。プロデュースはリック・ルービン。僕はまず、ギター・サウンドとリフにびっくりして。初期のニュー・オーダーみたいな、コーラスがかかった軽く歪んだ音で、〈なにこれ!?〉って。フレーズもポスト・パンクっぽい。でも、サビ後のパートでは思いっきりストロークスのサウンドになります」

田中「実はこの曲、ビリー・アイドル“Dancing With Myself”(81年)のメロディーをそのまま引用しているんですよね。まるでデヴィッド・リンチみたいな、50~60年代のアメリカのパロディーになっている悪夢的なビデオもおもしろい。というように、なんだか要素がてんこ盛りすぎて、混乱する一曲です……(笑)」

 

5. YG feat. Kehlani “Konclusions”

天野「最後はコンプトンのラッパーであるYGが、R&Bシンガーのケラーニをフィーチャーした“Konclusions”。先週金曜日のヴァレンタイン・デーに発表された楽曲なんですが、この2人は実際に恋人……」

田中「なんと! ラブラブなんですね~。ロマンティックで甘いムードのサウンドに乗せて〈愛してるの意味は、愛してる〉なんて歌ってて、ホント妬けちゃいますよ」

天野「最後まで話を聞いてください(笑)。恋人〈だった〉んです。昨年の9月頃から交際がスタートしたんですが、YGの浮気が発覚したことで、現在は破局したと伝えられています」

田中「なんと……」

天野「この“Konclusions”をリリースから数日後に、ケラーニはSoundCloudで“Valentine’s Day (Shameful)”という曲を発表しました。〈恥ずべきヴァレンタイン・デー〉というタイトルからしてすごいですが、歌詞も直接的で、ある男性への怒りがひしひしと伝わってくるものになっています。ダウナーでスクリューされたプロダクションも、まるで情念が渦巻いているかのよう。なので、これは2曲合わせての今週のベスト5って感じでしょうか。YGからのアンサーは……さすがになさそう! それにしても、ウィークエンド(The Weeknd)の“After Hours”1975(The 1975)の“The Birthday Party”など、話題曲が多くて紹介できないものが多かった週ですね」