
ほかの人に簡単に歌われたくない
――でもLioLanとして今回のEPを作る中で、声楽で学んだことをポップスで活かす方法を掴み始めて、ほかのポップスにない歌を生み出せた手応えはあるんじゃないですか?
キャサリン「声楽で学んだこと、役に立ってるのかな? むしろ最初は、声楽の発声に慣れすぎていたから地声で歌うのが本当に怖くて」
和久井「キャサリンは声量もすごくあるし、歌詞が聞き取りやすいんですよ。発音がクリアで、ちゃんと発声や発音を勉強してきた人の声だなって思う」
キャサリン「たしかにそういうのはあるかもね。舞台でマイクを使わずに歌って何を言っているかを聞かせなきゃいけない、ということをやってきたから。子役と声優をやってたのもあるかも」
――メロディラインも、普遍的なポップスのものというよりは、キャサリンさんが今までやってきたことを活かしたものになっているのではと感じました。
和久井「それは曲によって違って、正直に言うと、トラックに一番しっくりくるメロを選んで作ってるという感じですね。私が仮歌を歌ってそれに沿ってくれてるものもあれば、そうじゃない曲もあって」
キャサリン「“hangover”とかは私がメロディを作っていて、すごく高い音を出すのを無意識にやっちゃってるのはあるかも。でも沙良ちゃんが入れてくる仮歌も結構難しいよ」
和久井「うん、そうだと思う。私が書く曲のコードチェンジは少しだけ癖があって、それに合わせようとすると〈え、ここで半音上がるの?〉みたいな、そういう感じのラインにはなってるかな」
キャサリン「ほかの人に簡単に歌われたくない。キャッチーなんだけど簡単すぎないっていう」
和久井「ああ、そうだね。自分の中ではもっとやりたいコード進行やリズム、転調もあるんですけど、それをもうちょっとシンプルに落とし込んだのがLioLanの楽曲で。
自分もクラシックの和声とか理論を勉強してきてしまったから、多分どこかで無意識に〈これは絶対アウト〉という何かがあって、LioLanの曲はそこには引っかかってないと思うんですよ」
キャサリン「最初にできたのは“hangover”で、私はこの曲がLioLanの始まりな感じがしてる」
和久井「うんうん、そうだね。自分の好きなポップスができたなって思いました」

自分のやりたいことを100%やってます
――沙良さんが関わっていらっしゃるTK from 凛として時雨にしても、ずっと真夜中でいいのに。にしても、癖のあるポップスを多くの人に届けることに向き合ってる人たちですよね。
和久井「多分、彼らの影響もどこかではめちゃくちゃ受けてますね。前にインタビューで〈影響を受けてない〉って言ったんですよ。でもじわじわと受けてる気がしてきて(笑)。みんな、自分にないものを持ってるから。マインドとか、メロディラインとか、それぞれに大事にしているところがあって。自分が今何を必要とされているのかとか、お客さんが何を求めているのかを、ものすごく考えている人たちで、自分もそういうところを考えて曲を作ってみたいなと思うようになりました。
でも、そういうことを意識しだしたのは、このEPの曲を作ったあとかもしれないです。だから次に書く曲がまた変わってくるんじゃないかなと思います」
――そもそも沙良さんがここ数年、ボーカルの入った音楽をやりたいと思うようになったのはどういった理由からですか?
和久井「自分がボーカルの入った曲ばかり聴くからかもしれないです。インストは素晴らしいし、ライブも予期せぬ方向に行ったりしてすごく楽しいんですけど、ボーカルが入っていた方がとっかかりになりやすいからですね。それをまざまざと感じていて、自分も歌モノをやりたいという気持ちが前からあったので、遅かれ早かれやっていたんだとは思います。だからキャサリンがいてくれて本当によかったです」
――リスナーに対する意識や聴いてほしいという気持ちは、ずっと根本にあるんですね。
和久井「そうですね。やっぱり音楽って、聴かれないと存在意義がなかなかないというか。あんまり口に出してはいないですけど、そういう意識はありますね」
――かといってリスナーに100%寄り添うものにはならないだろうし。だから沙良さんのバランス感覚に興味が湧くんですよね。どんなものが出てくるのだろうって。
和久井「そうですね。商業に全振りしようという想いは、今のところはないですね。自分の音楽性を外の人から固められたくはないというか。〈もっとこうした方がいい〉と言われてそれをやるんじゃなくて、自分の中から湧き出たものを常にやっていたい。
たくさんの方に聴かれているアーティストの中にも、〈自分の作品を100%好きじゃない〉って言う人も多かったりして。自分はそういうふうな方向には行かなくてもいいのかなって思いますね。でもそれはまだ私が駆け出しだから言えることなのかもしれないし、これから状況が変わってきたらまた考えが変わるかもしれないです。
そこは本当に難しいですよね――音楽と商業って。自分の表現したいことをどこまで守っていくのか。ただこのEPを出した現状では、〈自分のやりたいことを100%やってます〉と自信を持って言えます」