(左から)Kobamuta、小林慧多
Photo by Kana Tarumi

東京を拠点に活動するプロデューサーの小林慧多とラッパーのKobamutaから兄弟ヒップホップユニットのRoss Moody。Black Boboiやmillennium paradeでの活動でもお馴染みのermhoiと配信リリースした共作シングル“We Met Only Once”や石若駿、マーティ・ホロベックらによるバンド、SMTKのアルバム『SIREN PROPAGANDA』(2021年)への参加など、話題を振りまくなかで制作されたアルバム『A Farewell to Nostalgia』がリリースされた。

ヒップホップを軸に、エレクトロニックミュージックやオルタナティブロックを横断するハイブリッドなトラックとその異質なグルーヴを乗りこなするラップ。さらに彼らの表現世界を拡張するべく招かれたermhoi、石若駿、マーティ・ホロベックをはじめとするゲストたち。そうした多彩な要素をまとめ上げた本作は、ヒップホップシーンのアウトサイダーであるからこそ持ち得た旺盛な実験精神がみなぎるオルタナティブなアルバムといえよう。ノスタルジーに別れを告げ、未来に向かう小林慧多とKobamutaの2人に話を訊いた。

Ross Moody 『A Farewell to Nostalgia』 APOLLO SOUNDS(2022)

 

ロック、ラップ、ダンスミュージックのせめぎ合い

──ご兄弟ということで、ユニット結成の経緯も何もないとは思いますが、Ross Moodyとして一緒に活動するようになったきっかけを教えてください。

小林慧多「18歳の時、僕が音楽を始めるタイミングで、一緒にやろうぜと誘ったんです。それ以前から家族でどこかに出かける時の車内で、親がレッチリやデヴィッド・ボウイをずっとかけたりしているような環境で育ったので、最初にロックを好きになりました」

Kobamuta「でも、俺はレッチリを耳にしつつも、自ら積極的にロックを聴くようなことはなく、中学生の頃、周りで流行っていた『高校生ラップ選手権』をきっかけに、ヒップホップを聴くようになったんです」

──ロック好きの慧多くんは音楽をやろうと思った時、バンドではなかったんですね。

慧多「ギターをちょっと弾いたりはしていたんですけど、周りに音楽をやってる人が1人もいなかったので、どうしようかなと思った時、DJだったら1人で出来るんじゃね?って。その延長線上で、当時すでにヒップホップを聴いてた夢大(Kobamuta)を誘ったんです」

Kobamuta「ヒップホップと並行して、EDMをきっかけにダンスミュージックを聴き始めたんですけど、陽キャすぎるメインストリームなものじゃなく、もっとディープなハウスやテクノ、ベースミュージックを聴くようになっていた時だったんで、それを2人でやってみようって」

慧多「その後、フォー・テットやアルカのようなアーティストを知って、今の音楽性に通じる作風に変化していたんですけど、作ったトラックをなんとなくSoundCloudにアップするだけでは誰にも聴かれないことにすぐ気づいて」

Kobamuta「それで今まで作ったトラックにラップを乗せようということになって、2019年にRoss Moodyは始まりました」

2019年作『What Murdered Me』収録曲“レインダンス”

──BPMの速いダンストラックにラップを乗せるのは簡単なことではなかったりすると思うんですけど、すぐに対応できました?

Kobamuta「普通のヒップホップトラックでラップしたことがなかったというか、自分がラップを乗せた最初のトラックがダンストラックだったので、僕にとっては自然なことだったんですよ。

そこから色んなラッパーのフローや乗せ方を参考に試行錯誤していったんですけど、影響を受けたのは、例えば、Gイージー。彼は普通に喋っているような語り口で、そこにリズムを付けるアプローチには大いに触発されましたし、あと、ずっと聴き続けているエミネム。最近は韻が曖昧でもOK、喋るというより歌うようなラッパーが多いなかで、彼はひたすらに喋って、その緩急でアクセントを付けつつ、ちゃんと韻を踏んでいる。自分がラップする時、そういうところは殊更に意識せずとも自然とやっていると思います」

──インストのトラックというのはそれ単体で成立するように音数が多かったりすると思うんですけど、ラップを乗せることを前提に、トラックの作り方は変わりました?

慧多「そうですね。夢大がラップを乗せやすい、乗せにくいトラックは、ラップしない僕にとって、その塩梅が最初は分からなかったんですよ」

Kobamuta「だから、〈ラップしているこのパートはさすがに音が多すぎる〉とか〈トラックのなかであまりにリズムの動きが大きすぎる〉とか、こちらから注文を付けたりもしましたし、かといって、あまりに音数が少なすぎると、ダンスミュージックとしての良さも損なわれてしまう。だから、ケンカしながら、お互いせめぎ合いながら、そのバランスを試行錯誤しているうちに、徐々に今のスタイルに落ち着いていったんです」