ケンドリック・ラマーと通ずる“Workin’ Hard”の解釈

そして〈課せられた重荷〉について。これは“Workin’ Hard”のコード進行が“I Want You”に通じるという読みが前提となった解釈だが、その“I Want You”をサンプリングしたビートで話題になった楽曲に、ケンドリック・ラマーの“The Heart Part 5”(2022年)がある。

これは、2018年にピューリッツァー賞を受賞して現代を代表するラッパー/リリシストとなったケンドリックが、自身や周囲を取り巻く問題に対する葛藤を綴った最新アルバム『Mr. Morale & The Big Steppers』(2022年)からの先行シングルとして配信された曲だ(最終的にはアルバム未収録)。MVでは、ラップし続けるケンドリックの姿がアフリカンアメリカンの有名人たち(O・J・シンプソン、Ye=カニエ・ウェスト、ジャシー・スモレット、ウィル・スミスなど毀誉褒貶ある人々)に次々変化する演出がなされている。人格者として知られてきたケンドリックがこの曲で述べているのは、有名人であることの辛さと、そうした人々が払ってきた代償や貢献へのリスペクト、安易なキャンセルカルチャーへの疑義だ。

ケンドリック・ラマーの2022年のシングル“The Heart Part 5”

上記を踏まえた上で、“Workin’ Hard”がリリースされるまでの藤井 風の立ち位置、投げかけられてきた評判の数々に思いを馳せてみるとどうだろう。もちろんこれは直接的に読み取れることではないが、〈Bow down, show them respect(頭を下げて、リスペクトを示して)/敵も味方もほんまはねえから〉といった歌詞や、プロデュースを担当するDJダヒがケンドリックの作品も手掛けてきたことにも鑑みれば、全く関係ないとも言えないのではないか。少なくとも、こうしたテーマが内包された楽曲ではあると思われる。

藤井 風による伝統と革新の両立

以上、“Workin’ Hard”の音楽性とそこに分かちがたく結びつく表現性について触れてきた。MV公開時、藤井 風自身がYouTubeのライブチャットで「Bye old Fujii Kaze」とコメントしているように、本曲は藤井 風ならではの持ち味は引き継ぎつつ、ビートの鋭さにしろ内省的な雰囲気にしろ、過去の楽曲群とは一線を画す仕上がりになっている。

自身が深く親しんできたアフリカンアメリカンミュージック(いわゆるブラックミュージック)の歴史的文脈をリスペクトしつつ、近年隆盛しているラテンポップにも対応できる曲調にまとめるという、伝統と革新の両立。そして、社会的なテーマをいくつも内包しながら、何も考えずとも楽しめてしまう快適な音楽に深刻な影を添えることで、聴く人にそれとなく影響を及ぼす。これほどの楽曲が日本のメジャーシーンの第一線から生み出されたのは、実に有り難いことに思える。今後の藤井 風の活躍も楽しみで仕方がない。

 


RELEASE INFORMATION

藤井 風 『Workin’ Hard』 HENN/ユニバーサル(2023)

リリース日:2023年8月25日
配信リンク:https://Fujii-Kaze.lnk.to/WorkinHard

TRACKLIST
1. Workin’ Hard