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前述した通り、本作はメンバーだけで集まり、プライベートなスタジオで制作された。制作がはじまった時期は定かではないが、アルバム『SOUNDTRACKS』以降もリハーサルを継続していたことは(ベストアルバムに関するインタビューなどで)桜井も明言しており、おそらくは昨年の30周年ツアーの前から、ゆっくりと時間をかけて生み出された作品なのだろう。目的や締め切りを決めず、まずは4人だけで音を鳴らす。そう、『miss you』はバンドとしてもっともベーシックな行為から始まっているのだ。

『miss you』30秒スポット動画

では、収録曲のいくつかを紹介しよう。まずは1曲目の“I MISS YOU”。ギターのアルペジオを中心にしたオーガニックな音像、少ない音数による奥深いアンサンブルは、このアルバム全体の特徴を端的に示していると思う。

自分がやっていることに対する疑問、もしくは否定にも似た感情が淡々と綴られた歌詞も心に残る。〈I miss you〉という使い古された言葉をモチーフにしながら、〈何を思って曲を書き、誰に聴いてもらいたいのか〉を自らに問いかけるような歌詞はあまりにも生々しく、それゆえに〈静かな衝撃〉と称すべきインパクトを聴く者に与えるはずだ。

その根底にあるのは桜井自身の感情だと思うが、それは同時に、リスナーひとりひとりの日常とも重なっていく。仕事でも勉強でもそうだが、自分がやっていることに完璧な確信を持っている人間はおそらくいない(いるとすれば、相当な無理をしているか、自分でも気づかないほどに自身を粉飾しているかのどちらかだろう)。我々が生きているのは、主に仕事を通じて、才能を開花させたり、何かしらの実績を残すことを過剰なまでに重要視する時代だ。そんなものはなくても充足できるのが本当の豊かさだと思うが、現実はそうではなく、〈何かを為せ〉、〈何者かになれ〉というプレッシャーのなかで自問自答を繰り返すことになる。少し大げさかもしれないが、“I MISS YOU”を聴きながら私はそんなことをつらつらと考えてしまった。

もちろん、アルバム『miss you』は、シリアスで憂鬱な思いを切り取っただけの作品ではない。日常のなかに〈こんな感じだけど、それでもがんばってみようかな〉と思える瞬間があるように、このアルバムにもポジティブな光を鮮やかに描いた楽曲が収められている。“青いリンゴ”もその一つ。若い頃の理想はなかなか実現せず、〈生まれ変わったら、こんな人生がいいな〉なんて想像を巡らせることもあるが、青いリンゴの〈まだ蒼くて酸っぱい/その果実を味わう〉ように、新しい季節に踏み出したい。この曲には、そんな自然な前向きが注がれているのだ。メンバー4人のフレーズが絡み合うバンドサウンドも魅力的。特にベースとボーカルが共鳴し合うシーンには強く惹きつけられた。

アコースティック楽器の音色を活かした、有機的なグルーヴを体現した“We have no time”も、ポジティブな意志を感じさせてくれる楽曲だ。冒頭で描かれるのはバンドのコンサートが行われた後の光景。ライブの余韻のままに路上で騒いでいるオーディエンスを見つめながら、この楽曲の主人公は〈まだまだいけんじゃない?〉と独りごちる。成熟さと瑞々しさを併せ持ったサウンドは今後のライブでも大きな役割を果たしそうだ。

もうひとつ、“黄昏と積み木”にも触れておきたい。ゆったりとしたビート、大らかで穏やかなメロディとともに映し出されるのは、〈君〉との何気なくてかけがえのない日々。幸せを見つけるのは意外と難しい。でも、君と一緒に〈小さな願い〉を積み上げていけば、きっと自分たちにぴったりの幸福にたどり着くはず。静かな祈りにも似たこの曲の余韻もまた、アルバム『miss you』の本質とつながっていると思う。

決して派手さはないが、聴き返すたびに新たな発見がある。小さな気づきが折り重なりながら、リスナー自身の日々が少しずつ豊かになり、もうちょっとがんばってみようという気分に導かれる――このアルバムにはそんな滋味深さがたっぷりと込められていると思う。この先もずっと聴き続けたい、新しい傑作の誕生だ。

 


INFORMATION
TOWER PLUS+ Mr.Children 特別号
『miss you』での新アーティスト写真を使用した表紙のフリーマガジン「TOWER PLUS+」(B5変形)をタワーレコードの店舗で無料配布。中面には『miss you』のレビューを掲載。
サイズ:B5変型
ページ数:4P
配布期間:2023年10月4日(水)開店から
配布店舗:タワーレコードおよびTOWERmini全店(一部休業中店舗、TOWER RECORDS CAFE、タワーレコード オンラインを除く)
※「TOWER PLUS+」はより多くの方に手に取っていただきたいため、お1人様各1部までのお持ち帰りとさせていただきます。無くなり次第配布終了となり、増刷の予定はございません。また、お取り置きはできません。ご了承ください
※天候や交通事情により配布が遅れる場合がございます

10月度〈MONTHLY TOWER PUSH〉
Mr.Childrenを 2023年10月の〈MONTHLY TOWER PUSH〉に選出、A2ポスターを全国のタワーレコードで掲出。
掲出期間:2023年10月1日(日)~2023年10月31日(火)
掲出店舗:タワーレコードおよびTOWERmini全店

Mr.Children 『miss you』発売告知タペストリー
掲示期間:2023年10月3日(火)~2023年10月9日(月)
タペストリー掲示店舗:札幌パルコ店/仙台パルコ店/渋谷店/新宿店/池袋店/町田店/ららぽーと立川立飛店/京都店/梅田NU茶屋町店/アリオ倉敷店/福岡パルコ店/那覇店
※展示期間は都合により変更になる場合がございます。あらかじめご了承ください

 

RELEASE INFORMATION

Mr.Children 『miss you』 トイズファクトリー(2023)

リリース日:2023年10月4日(水)
メーカー特典:『miss you』オリジナルステッカー ※一部店舗を除く

■完全生産限定盤(LIMITED BOX仕様)
品番:TFCC-81050
仕様:特製ペーパートレイ仕様/歌詞+PHOTOブックレット
価格:3,700円(税込)

■通常盤(三方背スリーブケース仕様)
品番:TFCC-81051
仕様:デジパック仕様/歌詞+PHOTOブックレット
価格:3,300円(税込)

TRACKLIST
1. I MISS YOU
2. Fifty’s map ~おとなの地図
3. 青いリンゴ
4. Are you sleeping well without me?
5. LOST
6. アート=神の見えざる手
7. 雨の日のパレード
8. Party is over
9. We have no time
10. ケモノミチ
11. 黄昏と積み木
12. deja-vu
13. おはよう

All Songs by Kazutoshi Sakurai
Produced by Mr.Children

Mr.Children New Album『miss you』特設サイト:https://www.toysfactory.co.jp/artist/mrchildren/20231004/