古巣に移籍し、マイペースな制作で掴んだファンク/ソウルの醍醐味と、無限の可能性。〈気持ち良さ〉に執着した熱量の塊を聴け!

自分たちのペースで

「在日ファンクはやってないといけない感じがするんです。すがりついていたいというか、在日ファンクがないと精神的に不安定になる(笑)」。

 そう話すのは、在日ファンクのフロントマンである浜野謙太(ヴォーカル) 。言うまでもなく、近年の浜野は俳優として多忙を極めるが、そうしたなかでもバンド活動を継続。このたび在日ファンクとして通算5作目となるアルバム『再会』を完成させた。

在日ファンク 再会 KAKUBARHYTHM(2018)

 在日ファンクはこれまでジェイムズ・ブラウン直系のファンクで多くのリスナーを獲得。『笑うな』(2014年)、『レインボー』(2016年)という前2作はメジャー・リリースも果たしたが、昨年にはメンバー・チェンジを経験。浜野にとってはSAKEROCK以来の古巣となるKAKUBARHYTHMに移籍するなど、さまざまな変化を経て本作のリリースと相成った。バンドの再スタートも意味するアルバム『再会』。本作で在日ファンクがめざしたものとは何だったのだろうか? 浜野がSAKEROCKとの活動と並行する形で在日ファンクを結成したのは2007年のこと。昨年には結成10周年を迎えたが、浜野は「10年という区切りそのものには強い思いはなかったんですけど」と話したうえで、こう続ける。

「ここまできちゃったので、好きなことをやろうと。それで気がかりだったKAKUBARHYTHM入りをしようということになったんです。こんなに近いところにいいレーベルがあったのに、今まで在日ファンクはKAKUBARHYTHMの色に合わないんじゃないかって勝手に考えちゃってたんですよ」(浜野)。

 浜野に限らず、在日ファンクのメンバーはそれぞれで別の活動も抱えている。ジェントル久保田(トロンボーン)は21人編成のビッグバンド、GENTLE FOREST JAZZ BANDを率いているほか、永田真毅(ドラムス)はキウイとパパイヤ、マンゴーズの一員として、仰木亮彦(ギター)や村上基(トランペット)らはソロ活動やさまざまなアーティストのライヴ・サポートでも活躍。在日ファンクはそうしなかでも多くのライヴを行うなど精力的な活動を展開してきたわけだが、 「以前は〈忙しさに負けちゃいけない〉と思ってたんですけど、音楽ってそういうことじゃないよなと思いはじめて」(浜野)、活動スタンスに対する意識も徐々に変化。その結果がKAKUBARHYTHMへの移籍に繋がったという。

「このバンドはメジャー・レーベルからガンガン発信していくほうがいいんじゃないかと思ってたんです。でも、バンドにはバンドの温度があるし、メンバーからも〈今のペースは合ってないんじゃないか〉という声もあって、〈在日ファンクはこうじゃなきゃいけない〉という自分の考えを一回解体してみようと。KAKUBARHYTHMだったら自分たちのペースで作れるんじゃないかとも思ってたんですよね」(浜野)。

 昨年3月には2011年の加入以来バンドを引っ張ってきた後関好宏(サックス)の脱退が発表され、浜野が率いるジャズ・トリオ、Newdayのメンバーでもある橋本剛秀が新加入することとなった。浜野からの誘いに対し、橋本は「最初はちょっと迷ってましたね」と言う。

「僕が以前やっていたKINGDOM☆AFROCKSでも、後関さんが抜けたあとに僕が入ったんですよ。そこにちょっと葛藤があって(笑)。あと浜野くんとの因縁(笑)。でも、在日ファンクの作品を改めて聴いてみたらすごく良かったから、一緒にやったらおもしろいことができるんじゃないかと思ったんですよ」(橋本)。

「そんなことを考えてたんだね(笑)」(浜野)。

 

快楽をもっと大事に

 橋本が昨年4月に加入すると、現体制のバンドはすぐさま始動。いきなりアルバムに向けた新曲の制作を開始する。

「バンドに入ってから3、4か月後には最初のライヴがあったんですけど、浜野くんは過去の曲をリハでは一切やろうとしなくて。ひたすら新曲ばっかり作ってましたね」(橋本)。

「〈新しい在日ファンクを作んなきゃ〉という意識にシフトしちゃってたんですよ。KIDS(橋本)くんが入って〈これだ〉という感覚があったんだけど、でも、僕も含めてメンバーのなかで〈簡単に喜んじゃいけない〉という感覚もあって。サッカーの日本代表が勝ち上がってるのに、保険かけてあんま喜ばないっていう感覚に近いというか(笑)」(浜野)。

 制作のスタイルは、浜野がMIDIで打ち込んだデモを元に、メンバー各自のアイデアを加えながら発展させていくというもの。浜野は「全曲右往左往してると思う。スムースに出来た曲はないんじゃないかな?」と話す。

「KAKUBARHYTHMに入ったことによって曲作りのペースが変わってきたことも大きくて。急いでヘンなものを作るよりは、時間を費やして良いものを作ろうっていう。その考え自体が正しいことだと以前から思ってたんですけど、KAKUARHYTHM入りとKIDSくんの加入によって、改めてその正しさを確認できたんです」(浜野)。

「浜野くんは責任感があるので、全部自分でまとめようとするんですよ。でも、今回は時間をかけて、みんなとのディスカッションを大事にして作ってくれたのかな」(橋本)。

 そうした制作の最初の成果としてリリースされたのが、昨年7月の7インチ・シングル“足元”だ。バンドのリスタートをみずから宣言するかのようなアップテンポのファンクには、再始動に向けた浜野の決意も込められている。

「セックスの例えをするとちょっと寒いかもしれないけど(笑)、一般的に男性のほうが能動的で女性は受動的とされるじゃないですか。在日ファンクはどちらかというと女性的というか、〈気持ち良かったあ!〉という快楽をもっと大事にしたくて。“足元”はそういう感覚が出てると思う」(浜野)。

 

まだまだいろんなものが

 “足元”で絶好のリスタートを切った在日ファンクは、橋本の加入した新編成でのライヴを行いながら、楽曲制作もマイペースに継続。そうしたなかで完成したのが今回のニュー・アルバム『再会』だ。前半は、〈これぞ在日ファンク〉というスウェッティーなファンクの波状攻撃。リズム隊がヘヴィーなグルーヴを作り出すオープニング・ナンバー“サチタイム”から〈待ってました!〉と声を上げたくなるのは筆者だけではないだろう。

「“サチタイム”を冒頭に持ってくるかどうかはバンド内でも意見が分かれたんですよ。今回は曲順ひとつとってもすごくディスカッションしたんです。誰かがパッと決めればいいのに、無駄に時間をかけました(笑)」(浜野)。

 KAKUBARHYTHMのレーベルメイトが参加しているのも本作の特徴だ。アップテンポの“飽和”では、日本語ファンク/ソウルの地平を切り拓く同志でもある思い出野郎Aチームの高橋マコイチをフィーチャー。浜野と汗臭さ満点のデュエットを聴かせる。

「“飽和”は一度録音が終わってたんですけど、もうちょっと何かが欲しいなと思ってたんですよ。この曲ではクラブのフロアのイメージがあったんだけど、在日ファンクは週末にクラブに行かないような人たちの集まりなので(笑)、フロアのイメージを出せないなと思って。思い出野郎はまさにそういうバンドなので、マコイチくんを呼んだんです。KAKUBARHYTHMに入ったということで、レーベルメイトとやる意味もあると思ったし、オジさんのデュエットもおもしろいんじゃないかと思って」(浜野)。

 中盤ではグッとメロウに展開。“足元”のカップリングとして先に発表されていた“或いは”も素晴らしいが、YOUR SONG IS GOODのサイトウ“JxJx”ジュンとの共作によるメロウ・ソウル“なみ”は、これまでの在日ファンクになかったタイプの楽曲だ。

「ギターの仰木が〈ジュンさんに歌詞を書いてもらいたい〉と言い出したんですよ。ジュンさんと仰木で2人でスタジオに入って作ったものをデモにして広げていった感じですね。歌詞は結局ジュンさん監修のもと、俺が書いたんですけど、譜割りとかもすごく細かくて。〈YOUR SONG IS GOODでもこうやって作ってるんだ〉とびっくりしました。ジュンさん、全然ユルくなかった」(浜野)。

 さらには浜野のなんともユーモラスな語りがインサートされたヘヴィー・ファンク“ふるさと”、ポップなフィーリングも感じさせる“ハートレス”、ニューオーリンズ・ファンクの匂いも漂う“再会”、そしてラストを飾る“泊まっていきなよ”と、全12曲に渡って成長したバンドの姿を展開する。そのレコーディング・エンジニアとミックスを手掛けたのはIllicit Tsuboi。曲順など細かい部分でもアイデアを出した彼の功績も本作を特別なものにしている。

「Tsuboiさん、最高でしたね。すご

く愛がある人なんですよ。弄び甲斐があるバンドだなと思ってもらえてたら嬉しいんですけど(笑)」(浜野)。

「単純にTsuboiさんのファンでもあったので嬉しかった。重低音のバスドラの下に締まったベースがあるという、踊れる音になったと思います。流石だなと思いましたね」(橋本)。

 本作の制作は、いわば〈新しい在日ファンクを作る〉という作業と並行して行われたわけだが、長期に渡る制作期間を経て見えてきた新たなバンドの形とはどのようなものだろうか。

「いやー、またわからなくなりました(笑)。というか、〈これが在日ファンクだ〉と規定するのをやめたということだと思うんですよ。今までは全部自分で作品の価値を判断してたんですけど、今回はいろんな人がアイデアを出してくれた。その意味でも充実してたし、素直に〈気持ちいい音だな〉と自分で思えたんですよ」(浜野)。

 そして、そこから見えてきたのは、在日ファンクの軸となるファンク/ソウルの醍醐味と無限の可能性だ。

「このバンドは〈ワンコードをループするのがファンクであり、それが格好いいんだ〉という思いから始まったわけですけど、〈シンプルなグルーヴのなかにまだまだいろんなものが詰まっているぞ〉と実感しましたね」(浜野)。

「今回は自分たちの気持ちいいところに収まるまで、すごく時間をかけて作りましたしね。〈気持ち良さ〉という点にはすごく執着した感じがする」(橋本)。

「そうだね。もっともっと自分たちを喜ばせたいというか……もっと幸せになっていいんじゃないかって(笑)」(浜野)。

 快楽指数は在日ファンク史上、過去最高。さまざまな縛りから解き放たれた彼らが叩き出すファンクは、今まで以上の熱量を持って聴くものに迫ってくる。結成11年目に辿り着いた、通算5作目にして最高傑作『再会』。今こそ在日ファンクに注目すべきだ!

『再会』に参加したアーティストの作品。