『SWEET 19 BLUES』 (1996年)
90年代や平成という時代を代表するマスターピース。時をさかのぼること95年、J-POPがピークに達しようとした季節に安室奈美恵は“太陽のSEASON”で単独名義でのデビューを果たした。同年のサードシングル“Body Feels EXIT”が初の小室哲哉プロデュース作品で、“Chase the Chance”“Don’t wanna cry”“You’re my sunshine”とミリオンヒットを連発するなかで本作はリリースされる。同時代のジャネット・ジャクソンやメアリー・J. ブライジ、TLCなどと共振しつつも、小室らしいユーロビートからニュージャックスウィング、ヒップホップソウル、R&Bバラードまでサウンドは多彩で、それらをインタールードでコンセプチュアルにまとめあげている。白眉はリカットされた“SWEET 19 BLUES”。〈19歳の安室奈美恵〉を刻んだ名曲だ。アルバムは300万枚以上を売り上げ、安室奈美恵は〈アムラー〉というフォロワーやファンを大量に生み出し、一気に現象と化した。 *天野
『Concentration 20』(1997年)
あえて先に触れておくと、本作の最も大きなトピックは〈“CAN YOU CELEBRATE?”が収録されたアルバム〉であるということ。TKブーム絶頂期、フジテレビの月9ドラマ主題歌、そして90年代の幸福で異常なカオスが一点に集中して生まれた爆発的ヒット。そんなJ-POPと同義語とも言える“CAN YOU CELEBRATE?”が収録されたオリジナルアルバムは、かなりエッジーな作品だ。のちにプロデュースを務めた小室哲哉自身も安室に「謝りたい」と明かしているほど、小室自身の当時の趣味趣向が色濃く反映されている。ハードなデジタルシンセのイントロ、メタリックなギターで構成されたアウトロに挟まれたプログレ曲“B w/z you”、〈安室奈美恵にレゲエを歌わせる〉という当時としてはかなり斬新なアプローチを実践した“Me love peace!!”、ループするトラックの上を初々しいラップが駆け抜ける”Storm”など、ヒットシングルを入り口に安室奈美恵の未知なる一面をプレゼンテーションしたアルバムだ。 *小田
『STYLE』(2003年)
ビートルズにおけるジョージ・マーティン、ジャネット・ジャクソンにおけるジャム&ルイスのようにアーティストとプロデューサーが作り上げる黄金期。安室奈美恵におけるそれは間違いなく小室哲哉と活動していた時期だったわけだが、この『STYLE』は小室から離れ、安室奈美恵として独り立ちした初作として第2のデビューアルバムとも位置付けることができる。本作のリリース前には、VERBAL(m-flo)や今井了介らをメインに安室をボーカルに据えたクリエイタープロジェクト〈SUITE CHIC〉としてアルバム『WHEN POP HITS THE FAN』(2003年)を発表。R&B〜ヒップホップ色を全面に打ち出した同作からの流れが、以降の安室の本流となっていく。T.Kuraとmichicoによるオリエンタルなダンスチューン“Namie’s Style”、ニュージャックスウィングの生みの親の1人でもあるテディー・ライリーのトラックメイクが光る“Indy Lady feat. ZEEBRA”、マドンナからTLCまで手がけるダラス・オースティンと再び手合わせし、その後のK-POPにおけるガールクラッシュとも共鳴する“Put ’Em Up”と冒頭3曲だけでも新章が成功へ向かっていることを確信できる。アニメ「犬夜叉」のEDテーマだった“Come”(アルバムには映画「犬夜叉 天下覇道の剣」主題歌“Four Seasons”も収録)を聴くと幼い頃の懐かしい記憶も呼び起こされるが、エレクトロな音色とミニマムにまとめられたニューウェーブなアレンジは当時かなり異彩だったはず。 *小田