フォークをやりながらもサイケ好きだった細野晴臣
安田「では、アルバムを1枚ずつ追ってお話しさせていただいてよろしいでしょうか? まずファーストから。1970年8月5日発売。
タイトルは『はっぴいえんど』というバンド名とそのまま同名なんですけれども、通称『ゆでめん』です。これは当時から『ゆでめん』と呼んでいましたか?」
松本「みんな『ゆでめん』と言っていました。『はっぴいえんど』なんて名前、忘れているよね(笑)。だから(ジャケットを描いた)林静一さんが付けたようなものだね。
細野さんに訊くといつもね、〈タイトルはいらない、全部『はっぴいえんど』でいい〉って言うんです。だから3枚目はそうなった」
安田「ちょっと遡るんですけれども、はっぴいえんど結成のタイミングについて訊かせてください」
松本「もともとエイプリル・フールというバンドをやっていまして、それがガタガタになっちゃって、(デビューアルバム『APRYL FOOL』を69年)9月に発売することになり、4月にレコーディングしたんです。その間にメンバーの仲が悪くなっちゃって、発売同時解散コンサートというのをやったんですね。そんなことをやったのはエイプリル・フールくらいだと思うんだけど(笑)。
それが終わって困っちゃって、仲がよかった細野さんと僕と小坂忠の3人で新しいバンドをやろうという話になったんだけど、忠がロックミュージカルの『HAIR』に出演することになったんですよ。で、2人になっちゃって、そこに大滝さんが入ってきて……」
鈴木「そこは詳しく教えてくれない? 僕は知らないから」
会場「(笑)」
安田「茂さんの登場以前ですもんね(笑)」
鈴木「大滝さんがそこに現れたのは、どういう経緯だったの?」
松本「細野さんはもともとザ・キングストン・トリオみたいなフォークトリオをやっていたんです。中田佳彦さんって覚えてる?」
鈴木「覚えてる。大滝さんと中田さんと細野さんの3人でトリオをやっていたってこと?」
松本「そう。その3人でキングストンのコピーみたいなのをやっていたんです。一方で、細野さんってサイケ趣味もあるじゃない? そっちでSKYE(鈴木茂、小原礼、林立夫のバンド)とかを好きになっているわけです」
鈴木「なるほどね」
松本「その2つが並行していたんですけど、フォークトリオの方が消えたんだよね。それで、どこかで大滝さんと細野さんが出会ったんだ。
ある時、細野さんが大滝さんに〈バッファロー・スプリングフィールドって分かるか?〉って訊いたら、大滝さんが〈分からない〉と言ったから、〈あいつはダメだ〉と当時言っていて(笑)。そうしたらある日、大滝さんが〈バッファローが分かった!〉と電話してきて。それで〈一緒にやろうか〉となった。
茂の名前は、ずっと細野さんの頭の中で候補にあったんだよね」
鈴木「3人でヴァレンタイン・ブルーという名前で曲作りを始めていたんでしょ?」
松本「細野さんがヴァレンタイン・ブルーという名前を決めたんだけど、僕はあまり気に入っていなかったんだよね。ちょっと女々しい感じがして。大滝さんは気に入っていたけど」
鈴木「3人で旅行に行って曲を作っていたと聞いたけれど」
松本「東北旅行をしたよ。その時、僕の父親が福島にいて、そこに一泊して福島から奥日光に行くっていう。僕のトヨタの車か細野さんのブルーバードのどっちで行ったかはよく覚えていないんだけど、運転は僕がしていたと思う」