チバユウスケというミュージシャンの素晴らしさ
取材で音楽について教えてもらうことが多かったが、こちらも音楽の仕事をしているのだから、たまには、チバが興味を持つ音楽情報を提供したいと思っていた。2000年9月リリースの12枚目のシングル“Baby Stardust”のジャケットを観た瞬間に、その時がやってきたと意気込んだのを覚えている。ピンク・フロイドの1stアルバム『夜明けの口笛吹き』(1967年/原題:The Piper At The Gates Of Dawn)のジャケットのパロディになっていたからだ。もともと筆者はプログレオタクであり、ピンク・フロイド初期に在籍していたシド・バレットはフェイバリットミュージシャンの1人だったため、シド・バレットの知られざる逸話などを語ろうと思ったのだ。
取材時に、その話をしようとすると、チバが「オレ、プログレはまったく通っていないんだよね」と言う。シド・バレットの素晴らしさを少しだけ力説し、「プログレだからといって、大仰なわけではない」と、ついでにキング・クリムゾンの5枚目から7枚目までのアルバムについて、つい熱弁してしまった。「長谷川さんがそう言うなら、聴いてみようかな」とチバは言ったけれど、正直なタイプですぐ顔に出るので、その表情を見ると、聴く気がないことがわかった。もちろんその後、「聴いた?」などとヤボな質問はしていない。チバの好む曲は、激しい曲調でもどこかにポップでキャッチーな要素が入っている。それは、60年代のドーナツ盤が好きだったからなのだろう。
チバユウスケというミュージシャンの素晴らしさは、シンガー、ギタリスト、ソングライターとしての才能の他に、自分のいいと思うものをとことん追求する意志と姿勢、いいものを見分けるセンスが卓越している点にもあると思っている。強い意志といい耳と柔軟な感性とリスナーとしての多くの蓄積が大きな武器になっているのだ。以前、〈バンドの成長・進化〉について、質問したことがある。チバの答えはきわめてシンプルであり、そして納得のいくものだった。要約し、断片的な言葉をつなげていくと、こんな内容だ。
「成長とか進化とか考えて、音楽を作ったことはない。その時に自分がいいと思った音楽をやるだけ。変化なんか考えなくても、自分が去年聴いていた音楽と今年聴いている音楽は違うし、自分の気分も日々変わっているんだから、その時にやりたいことをやれば、自然に新しい音になるんだよ」
おそらくインタビューされることはあまり好きではなかったと思うのだが、こちらの質問に苦笑いすることはあっても、文句を言うことはなかった。記事として掲載された文章に関しても、「音楽は聴く人間がどう感じるかだから、思ったままに好きに書けばいいよ」といつも言ってくれた。ステージでの激しいシャウトやパフォーマンスとはギャップがあるが、本来、優しい性格の持ち主だった。こだわることには徹底的にこだわるが、どうでもいいことは、本当にどうでもいいタイプ。大らかで、懐が深くて、面倒くさがりでもあった。取材時には、鼻で笑ったり、苦笑したりすることも多々あったが、どんな笑顔も魅力的だった。誰もが好きにならずにいられない、素朴さや人懐っこさも備えていた。
インタビュー時のしたたかな作戦
チバにインタビューする時は、話がはずまない可能性は少なくないので、話の糸口を作るために、こちらが作品の感想をいろいろと述べることがある。そうすると、チバは「それで?」「どうしてそう感じたわけ?」「なるほど。で?」と、こちらの言葉に反応してくることが結構あった。しかし、これはこちらの感想に興味を持っているわけではなくて、自分の話す時間をできるだけ短くしたいというチバのしたたかな作戦だったのだろう。
「このイントロからリフの流れ、僕がティーンエイジャーの女子だったら、キャーキャー叫んで、失神していますよ」と言うと、「あのさぁ、悪いんだけど、気持ち悪い例え、やめてくれる」と言われたりした。たまにはもう少しマシな反応をすることもあった。例えば、The Birthdayになってからのこと、7枚目のアルバム『COME TOGETHER』(2014年)について、いつもどおり、まずこちらの感想を述べた。
「音や曲調はまったく違うんだけど、アルバム全体からドアーズの音楽に共通する精神性を感じました」
「それってどういうこと?」
「聴き手の意識の覚醒を促すような感じ」
「ふーん。でもドアーズってのは鋭いかもしれない。曲作りをしている間、ドアーズばっかり聴いてた時期があったわ。今の話を聞いて思い出した。へぇー、そう感じたんだ」
と、それなりに反応があった。そうした前フリをきっかけとして、いつもよりは多少インタビューがうまくいくこともあったような気がする。