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ジャズを軸にしつつ、自由に越境

 そんな「カウボーイビバップ」の音楽においてとりわけ有名なのが、アニメのオープニングを飾ったインスト曲“Tank!”。菅野の号令のもと集った凄腕ミュージシャンたちによる固定メンバーを持たないバンド、SEATBELTSが演奏する本楽曲は、ジャンルで例えるならば、ストレートなジャズというよりもブラス・ロックやジャズ・ファンクなどに類する音楽性で、ビバップと同時代に隆盛を誇ったアフロ・キューバン・ジャズの熱気を思わせるパーカッション(演奏は三沢またろう)、アルト・サックスの本田雅人による豪快なブロウを含む管楽器隊のシャープな演奏が、作品のクールでスタイリッシュな一面を表現していた。その一方、山根麻以(当時は山根麻衣)が歌うエンディング・テーマ“THE REAL FOLK BLUES”は、苦み走った歌声がハードボイルドな作品性を象徴。どちらもアニメ音楽屈指のテーマ曲だ。

 また、ジャズ系の劇伴では、本場NYの〈ジャズ〉の匂いを取り入れるため、数多のモダン・ジャズの名盤を手掛けた伝説的エンジニア、ルディ・ヴァン・ゲルダーのもとを訪れてレコーディングを敢行。参加ミュージシャンのなかには、アル・フォスター(ドラムス)やニコラス・ペイトン(トランペット)といった名前もある。さらに日本のブルースハープ演奏における第一人者・妹尾隆一郎の名演が光る“SPOKEY DOKEY”や古川昌義のスライド・ギターがライ・クーダーばりの異国情緒を演出する“FELT TIP PEN”など、楽曲ごとに国内外のさまざまなミュージシャン/歌手が参加しており、理想の音楽を追求するための自由な発想と適材適所なプレイヤー選びもまた、本作並びに菅野よう子が生み出す音楽の強みになっている。

SEATBELTS 『COWBOY BEBOP Soundtrack From The Netflix Series』 FlyingDog(2023)

 そして今回、2021年にNetflixで配信開始された海外ドラマ版「カウボーイビバップ」のサントラが、初CD化の23曲を含む2枚組CDで登場。もちろん菅野が全曲を制作しており、スリリングなジャズ曲“RUSH”をリアレンジした“Net Rush”、JB流儀のファンク“What Planet Is This?”の再演ヴァージョン(ダブのようなミックス処理も強烈!)といった、アニメ版の劇伴からの流れを汲む、ファンならば胸アツのナンバーもあれば、物悲しくも美しいオーケストラ曲“The Fate of Three”のようにいままでの「カウボーイビバップ」にはなかったタイプの楽曲も収録されている。歌モノでは、本シリーズの音楽には欠かせない山根麻以が、ファンキーな“Cat Attack Part 1”と哀切に満ちた“Muddy Road”の2曲でパワフルな歌声を披露。さらにLEO今井のヴォーカルと激しく唸るギターが深淵の景色を描く“Lord of the Empty”という初顔合わせのコラボも実現。ジャズを軸にしながら、ジャンルも人脈も自在に越境して作り上げられる〈ごった煮感〉は今作でも健在で、それこそが「カウボーイビバップ」の音楽の本質であり最大の魅力だということを、改めて感じさせられる音源集になっている。 *北野 創

左から、カウボーイビバップの過去音源7タイトルをまとめた11枚組のLPボックス『COWBOY BEBOP LP-BOX』(FlyingDog)、山根麻衣の80年作『たそがれ』(Continental)、LEO今井を擁するTESTSETの2023年作『1STST』(ワーナー)