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信頼する須川崇志&山田玲との抜群なトリオ

――ベースの須川崇志さんとドラムの山田玲さんの共演は、意外と多くない組み合わせかもしれないなとも思いました。

「そのようです。〈玲さんと須川さんが一緒に演奏したらどうなるかな?〉と思って、一度ライブハウスで3人で演奏してみたら本当に良くて。

〈メンバーはどうする?〉と平野さんに訊かれたときに、即座に〈玲さんと須川さんがいいです、お願いします!〉と伝えました。平野さんも〈2人とも最高のプレイヤーでぼくもよく知っているけど、一緒に組んだ作品はおそらく無いはず。抜群のアイデアだ!〉と喜んでくれて」

――山田さんは最近、活動拠点をロサンゼルスに移されたそうで、その意味でも非常に貴重な録音になりましたね。おふたりとは長い付き合いなのですか?

「玲さんに初めて会ったのは、私が高校生のときです。大西順子さんに習っていた頃、順子さんのトリオのドラマーが玲さんで、憧れのドラマーだったんです。上京してからも何度もライブを見に行って、〈共演したい〉とお願いしました。実際、一緒に演奏させていただいたら、もうあまりにも素晴らしくて(笑)。オリジナル曲の意図も汲み取ってくれて、すごくかっこよく仕上げてくれる。めちゃくちゃ音楽力の高い方ですね。

須川さんとは、私が上京してから知り合いました。ライブを見に行って〈めちゃくちゃすごいな〉と思って。それから何度も一緒に演奏させていただいています」

――“Sea Raccoon”を聴くと本当に三者一体という感じで、後半のピアノとドラムの掛け合いも、かっちり8小節ずつソロの交換をしているのではなくて、お互いの演奏がそれぞれの小節に入り込んだりしていて、すごくスリリングです。

「〈この人となら、ここまでいける〉という信頼がないと、踏み込んだ演奏はできません。トリオのメンバーが玲さんと須川さんだから、自分も思い切っていろんなことができたんだと思います」

 

バッハってすげえジャズ

――平野プロデューサーが書いたライナーノーツを拝見したところ、活動を始めた頃は〈リーダーライブのチャンスが来たら最低2曲は新作を書く〉ということをご自身に課していたそうですね。

「実は当初は作曲が得意じゃなくて……。なので、バークリーに入学する前から、自分のリーダーライブのときは〈何でもいいからとにかく書く!〉と決めていたんです。トレーニングのために。でも、やっぱりなかなかうまく行かなくて、バークリーで作曲を専攻しているミュージシャンを見るにつけ、〈彼らみたいな曲は書けないな……〉と落ち込んでいた時期もありました。

でもそんなときに、ルームメイトだった作曲専攻のミュージシャンが――いま活躍されている作曲家でなんですけど――その人が〈まず書かないことには何も始まらないよ。曲をめっちゃ書いてみる時期があってもいいんじゃない?〉とアドバイスしてくれて。確かにそうだと思って、ジャズコンポジション科に途中から入ったんです。そこでは作曲課題の締め切りがありますし、短期間で曲を書き上げることを何回も繰り返すうちに、自分が納得できるものが蓄積されてきて、形にする能力が上がっていくのが自分でもわかった。そのうち曲を書くのが楽しくなってきたんですよね」

――しかもバンドで演奏する場合は、共演者の個性や即興の要素も加わって、サウンドがどんどん膨らんでいく。

「そうなんですよ。書いているときは〈これ、大丈夫かな?〉と思うこともありますが、バンドで演奏すると、〈共演者のプレイによってこんなサウンドになるんだ!〉とすごく感動するときがあります。そういうふうに仕上げてくれるミュージシャンを想像して、書いているところもありますね。

作曲に関しては基本的に〈歌える曲を作りたい〉と考えています。歌える曲じゃないと多分、自分も弾けないんです。昔のスタンダードナンバーの多くは元々、歌詞がついてますしね」

――ではジャンルを問わず、平倉さんがお好きな作曲家は?

「そうですね……。最近、バッハが好きなんです。〈バッハってすげえジャズだな〉とも思います(笑)。

中学生や高校生の頃は、バッハの曲を練習していても何も感じなかったんですよ。〈なんか難しいし、ベートーヴェンとかショパンのほうが弾いてて楽しいな〉って感じだったんですけど(笑)、最近は〈バッハの曲ほど緻密に作られた音楽って他にあるのかな?〉と思うようになりました。例えば“平均律クラヴィーア曲集”なんかは、どの曲もだいたい3声や4声でできていますが、1つのモチーフを展開させて1曲が出来ています。なのに、単音のメロディの中にもコード進行が見えるというか……。バッハはある意味、ビバップ的な発想を当時、すでに持っていたんだと思います。

そこから真剣にバッハを練習し始めて……。3声にも聞こえるものを耳で一度に処理しないといけないですから、練習を重ねていくうちに音楽がもっと立体的に聴こえるようになってきました。バッハの曲を弾くときは相当、集中を要するんですよね」

――“The Trigger Point”を聴いていると、ウェイン・ショーターの創作も相当お好きなのではと感じたのですが。

「ショーターのちょっとダークだけどキャッチーな感じを自分の曲でも出せたらいいなとは思っています。なかなか上手くいきませんけど。

あと生まれ変わったらサックス奏者になりたいと思うこともあって(笑)。ピアノは鍵盤も多いし、音域も一番広いし、和音も一気に弾けるし、オプションが多い楽器ですけど、それでも単音楽器に憧れるところがあるんです。単音でしか表現できないラインがありますから。自分の体を使って、息を使って演奏する楽器には憧れがあります」