Page 2 / 3 1ページ目から読む

ルーツへの忠誠心

 とはいえ、『66』がゴテゴテと過剰に華美な作品になるはずもなく、むしろリラックスした状況でゆったりとした雰囲気にまとめられているのはポール・ウェラーという人ならではの美意識だろう。プロダクションのハンドルは自身で握り、大人数でのセッションやバンド録音にこだわったのかと思いきや、多くの演奏パートを自身で担った曲も多く、全曲でドラムを叩くベン・ゴードリアを除けば、ウェラー・バンドの面々もむしろ出番が控えめなようにも思える。

 そういう雰囲気になっているのも今作が本人の言う通り「内省的で内向きなアルバム」で、全体的に落ち着いたテイストで整えられているからだろう。先行シングルとなったボビー・ギレスピー作詞の“Soul Wandering”は洗練されたミッドテンポのソウルフルなロックで、オルガンとホーンズが映えるゴスペル~オールド・ソウル的な風情が実に心地良い。それに続いたセカンド・シングル“Rise Up Singing”はもともとウェラーが客演したモンクス・ロード・ソーシャルの楽曲で、それをリアレンジした格好となる優美なソウル・ナンバー。ハンナ・ピールのストリングス・アレンジも効いている。そこからトム・ベルらのフィリー・スウィートな作法を嗅ぎ取ることができれば、今回の彼が時間をかけることでルーツへの忠誠心を前面に出していることがわかるかもしれない。サッグスと共作したオープニングの“Ship Of Fools”はアコースティックな感触のスロウで、スティーヴ・トリッグス(ストーン・ファウンデーション)のホーン・アレンジとノエル・ギャラガーの作詞を含むグラムな“Jumble Queen”もある。さらにセイ・シー・シーがバック・コーラスを添えた“In Full Flight”は往年のスモーキー・ロビンソンを想起させるような甘さに溢れている。こちらは『True Meanings』(2018年)でも手を組んだチーム=ホワイト・レーベルとのやりとりから生まれたものだ。

 新味としてはかつてリミックスを依頼したフランスのル・シュペールオマールことクリストフ・ヴァイランと共同プロデュースした“Flying Fish”を収録。ソフトなダンス・トラックといったアップテンポの意匠ながら、「アルバムを作りはじめて最初の頃に出来た」という瑞々しいメロディーとドリーミーな雰囲気が心を掴んで離さない。クリストフは“A Glimpse Of You”やシャンソン的な物悲しさを帯びた“My Best Friend’s Coat”でも見事な瞬間を創出している。

 制作を進めつつ彼は、自分が66歳になることや、その意味を考えたのだそうだが、そこに答えがあるのはともかく、休みなく作品を出し続けることが彼にとっての正答であり、ソロで17枚目、キャリア通算28枚目となる『66』がその最新の答えだ。そんな一作が名盤『Stanley Road』(95年)以来となるサー・ピーター・ブレイクのアートワークに包まれているのも偶然ではないかもしれない。

2020年代のポール・ウェラー作品。
左から、2020年作『On Sunset』、2021年作『Fat Pop (Volume 1)』、同年のオーケストラ・ライヴ盤『An Orchestrated Songbook』(すべてPolydor)、B面曲やレア曲などを集めた編集盤『Will Of The People』(UMC)、2024年の来日記念EP『Fat Pop Extra』(ユニバーサル)

『66』に参加したアーティストの関連作品を一部紹介。
左から、ボビー・ギレスピー&ジェニー・ベスの2021年作『Utopian Ashes』(Silvertone)、ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズの2023年作『Council Skies』(Sour Mash)、ハンナ・ピールの2021年作『Fir Wave』(My Own Pleasure)、セイ・シー・シーの2023年作『Silver』(Karma Chief)