華々しい経歴を得てさらに、たゆまぬ鍛錬と磨き抜いた実践を聴衆に披露してきた二人の若き〈表現者〉が練り上げる驚くべきブラームス。作品の深底に降り立ち入念に重ねた音楽的対話、その豊かな共感と沈着ぶりがソナタ3曲でみずみずしく開示された。楽想にゆらめく情感、噛んで含めるように真摯にコントロールされた語り口は、耳に親しい旋律の宝庫である各番号での主題の扱いから即座に窺える。第3番第2楽章で辻彩奈が紡ぐ美しい重音の連なりはことのほか忘れがたい。辻の音楽的充実がまさしく集中的に顕れた一枚であり、繊細精密な筆致で奥行きを音楽にもたらす阪田知樹のピアノに魅了される一枚である。