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アンバー・ナヴラン、ジェイコブ・マン、フィル・ボードローは音を楽しむことが目標だにゃん。三者三様の才能を輝かせたハッピーな個性の集合体がいよいよアルバム・デビュー!

 アンバー・ナヴランがムーンチャイルドと同じトリオ編成で新グループを結成した。その名はキャットパック。LAを拠点にメンバー全員が管楽器を操り、ジャズやソウルをベースにしている点もムーンチャイルドと同じだが、あとのふたりは別人だ。サム・ウィルクスとのユニットでも活動する鍵盤奏者のジェイコブ・マン、そしてジャスティン・ビーバーなどを手掛ける気鋭プロデューサーでダワウン・パーカーとユニットも組んでいたフィル・ボードロー。アンバーとジェイコブは南カリフォルニア大学時代からの友人で、パンデミックで互いのツアーがキャンセルとなった際にメールでビートを交換し合い、そこにアンバーと同じマネージャーを持つフィルが加わって偶発的に始まった。2年半ほど前から対面で曲作りを始め、今回、トゥルー・ソーツからファースト・アルバム『Catpack』をリリースする。

CATPACK 『Catpack』 Tru Thoughts/BEAT(2024)

 それぞれがお互いの音楽や歌声のファンであるという3人は、「各自のアイデアを尊重し合いながら3人で音楽を楽しむことがグループの目標」だと口を揃える。まるでじゃれ合う猫のように親密なのだが、キャットパックという名前は猫の鳴き声に似たシンセ・パッチにちなんだもの。なかでも“Next To Me”はグループ名とコンセプトを体現したような曲だ。

 「まさにどの曲よりも猫っぽい曲。シンセサイザーのピッチベンドを使って本物の鳴き声に近づけたんだ。アルバムの最後を飾るデザートみたいな甘美な曲で、ハッピーでふざけた感じもするけど、心のこもったメッセージがある」(ジェイコブ)。

 キャットパックの音楽は、第1弾シングルとなったタイトでミニマルなファンク“What I’ve Found”に代表されるように、管楽器のオーガニックで柔らかな音色とシンセサイザーのエレクトロニックな音色が破綻なく同居し、凝ったハーモニーを奏でる。ムーンチャイルドとしても次のアルバムを制作中だというアンバーは「私の参加でムーンチャイルド的な雰囲気があるのは自然なことだけど、キャットパックは3人が自分のサウンドを確立していて、各自の個性がハッキリと出ている。全員のソロ作を聴いた後にキャットパックの音楽を聴くと、それぞれの個性が集合体として輝いていることがわかる」と分析。対してフィルは、「すでにあるサウンドを邪魔せずに僕のほうで何か足せる要素があるかと、そうしたスペースを曲の中で見つけるのが楽しかった」と話す。

 ヴォーカルも、柔らかでハスキーな声のアンバーと青臭く伸びやかな声のフィルで分け合い、フィルいわく「ふたりで歌うことでハーモニーの幅が広くなった」という。また、メロウなスロウ“Rainbows”では、アンバーいわく「歌詞で自分らしくない〈偽りの自分〉を表現しているので、あえてピッチを下げて地声とは違う声にした」というように声も加工。故J・ディラに通じるズレたビートにジェイコブのクラリネットやアンバーのコーラスが絡む“Runnin'”、ゲーム風の音を配した“Yep”など、猫のイタズラのような音遊びには気負いがない。クリスピーなビートの上でノスタルジックなナイトクラブの雰囲気を漂わせる“Tomorrow”には、ビッグバンドを率いてもいるジェイコブのセンスが反映されたような印象を受ける。

 「“Tomorrow”はアンバーが作った歌メロとドラムのグルーヴのみのデモから曲を組み立てていった。アンバーの歌と一緒にシンセを鳴らしながら、チョップしたドラムに合わせてシンコペーションのようなベースラインを考えた。ナイトクラブの雰囲気はオールドスクールなコード進行だからじゃないかな。フィルとアンバーが交互に歌っていく曲だけど、ふたりのヴァースが違っていてクールだよね」(ジェイコブ)。

 リリックはどこか風刺も効いているが、「歌詞の一貫性やテーマはなくて、サウンドや雰囲気、経験から得たものを引き出しただけ」(アンバー)で、「最初にメロディーがあって、サウンドやコード進行からヴィジュアル的なものや感情を呼び起こした」(フィル)という。

 近年気になるアーティストを尋ねたところ、ジェイコブは演奏的な視点からデヴィン・モリソンやクルアンビン、アンバーはホーンのアレンジ、フィルはミックスの素晴らしさから、共にヴィクトリア・モネの『JAGUAR II』を激賞。〈まずサウンドありきの音楽〉を究める彼らは現在、ライヴのために新たなアレンジを考案中で、アルバムのアートワークやイラストを手掛けるフィルの才能を活かしてグッズ制作にも励んでいる。メンバー各自の才能を発揮しながら同じゴールをめざすキャットパックは、成熟した大人たちが理想的なバンドのあり方を体現した究極のユニットと言えそうだ。

左から、ムーンチャイルドの2023年作『Reflections』(Tru Thoughts)、サム・ウィルクス&ジェイコブ・マンの2022年作『Perform The Compositions Of Sam Wilkes & Jacob Mann』(Leaving)