(左から)ムーンチャイルド、TENDRE

LA出身のマルチプレイヤー3人組、ムーンチャイルドが、結成から10年を迎えての新作『Starfruit』を発表した。これまでは3人で文句のつけどころのないパーフェクトなアルバムを作ってきたわけだが、5作目となる『Starfruit』は、初めて外から複数のシンガー、ラッパー、ミュージシャンを迎えて作られたという点においても、新しいサウンドで領域を広げて見せている点においても、グループの新章を強く感じさせる。

父親ダニー・ハサウェイの才能を継ぐレイラ・ハサウェィ、アーニー・アイズレー(アイズレー・ブラザーズ)の娘アレックス・アイズレー、スナーキー・パピーとの活動などで注目されたシャンテ・カン、ニューオリンズ出身の素晴らしいライブバンドであるタンク・アンド・ザ・バンガス、ラッパーのイル・カミーユ、ラプソディ、ムーム・フレッシュ、サックス奏者のジョシュ・ジョンソンらとのコラボレーションはどれも有機的で、幸福感に満ちたもの。それによってバンドのボーカリスト、アンバー・ナヴランの歌唱にも変化が生まれ、これまでの作品よりも彼女の感情とメッセージが伝わってくる作品になっている。

現代R&Bをベースにしながらポップスとしての親しみやすさと柔らかさを持つ音楽であること、マルチプレイヤーであること、ジャズを背景として音響も学んできたことなど共通するところが多く、ずっとムーンチャイルドの音楽に魅了され続けているというTENDREこと河原太朗に、彼らのオリジナリティーと新作『Starfruit』における〈軽やかな挑戦〉を語ってもらった。

MOONCHILD 『Starfruit』 Tru Thoughts/BEAT(2022)

ムーンチャイルドの音楽はTENDREの理想に近かった

――河原さん、ムーンチャイルドが相当お好きですよね。音楽を聴いていて、わかります。

「そうですね。制作にあたってのリファレンスとして聴いている曲も多かったですし」

――聴きはじめたのはいつ頃ですか?

「2017年の彼らのサードアルバム『Voyager』からちゃんと聴きはじめました。それまでもちらちらとは聴いていたんですけど、2018年にTENDREのファーストアルバム『NOT IN ALMIGHTY』を作るにあたってスタジオに入り、エンジニアの方と〈どういう音像にするか〉を話し合っていたときに、ムーンチャイルドの“Run Away”をでかいスピーカーで聴かせてもらって。〈このミックスと曲の構造はなんなんだ!〉って、すごい衝撃を受けたんです。サブベースの使い方とか、けっこうエグいことをカジュアルにやっているなという印象で。心をつかまれた瞬間でしたね」

ムーンチャイルドの2017年作『Voyager』収録曲“Run Away”

――彼ら独特のサウンドデザインとか、ミックスの個性につかまれたわけですね。

「まずはそこでしたね。それで2012年のファーストアルバム『Be Free』から改めて聴いてみると、やっていることに一貫性があった。ビート自体はある種ヒップホップライクに作られているのに、メンバーそれぞれが管楽器を吹くなど、生音の乗っけ方がめちゃめちゃ上手い。それは自分がやりたかったこととすごく通じていたところで。自分も稚拙ながら管楽器を吹くし、鍵盤のチョイスの仕方もまさに自分の好みだったので、これだ!という感じがありました。有機的なものと無機的なものとの混ぜ合わせ方、そのバランスの持たせ方が、自分の理想に近かったんです」

TENDREの2021年作『IMAGINE』収録曲“ENDLESS feat. SIRUP”