TARO HAKASE & THE LADSのアルバム『VIBRANT』のリリースを記念して、タワーレコードではフリーマガジン「TOWER PLUS+ mini TARO HAKASE & THE LADS 特別号」を発行! ここでは中面に掲載されているライター・本庄雅之によるレビューを掲載いたします。「TOWER PLUS+ mini」はタワーレコード全店にて配布中です!

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TARO HAKASE & THE LADS 『VIBRANT』 HATS(2024)

 

凄腕9人との銀河系バンドで生まれ変わった葉加瀬太郎

リ・ボーン、葉加瀬太郎。そう言って差し支えないだろう。これまでも様々な変化球を投げ込んで、オーディエンスを楽しませてきた稀代のエンターテイナーが今回挑んだのは、飛び切りの腕利き9人を従えた総勢10人のバンド。今年2月、ブルーノート東京でのデビューライブで度肝を抜いた面々が、それぞれ曲を提供して魂をぶつけ合ったアルバムが『VIBRANT』だ。

天野清継(ギター)による疾走感あふれる1曲目が、あいさつ代わり。オープンカーのアクセルを踏み込んで、山道を駆け上がってゆくようだ。曲のタイトルが“Moon Beams”だから、それは月夜なのかもしれない。ドラム、ピアノ、キーボード、パーカッションとジャズのビッグバンドのごとく主張しながらキャプテン葉加瀬のヴァイオリンが引き立つ。

最高にハッピーな気分にさせてくれるのは、6曲目“VIDA FELIZ”。中南米のどこかの町かヨーロッパの孤島の広場で繰り広げられているお祭りが思い浮かぶダンスナンバーだ。解放感たっぷりでひたすら陽気。が、耳を澄ますと、音はあくまで整っていて、踊りの輪に加わらずに、じっと座って聴いている大人をうならせるに十分だ。作曲した長年の盟友、柏木広樹(チェロ)が、こう言った。「この凄い人たちって、楽屋での真剣な音楽を語る時でない普段な感じって底抜けにハッピーなんです。その普段の楽屋の会話をメロディにしたつもり」。葉加瀬と30年近い交流を経て、たどり着いた音楽は、友情の証とも言える渾身の1曲となった。

続く葉加瀬自身による““WATUUSI”!!”は、柏木作品へのアンサーソングといった趣。歌詞を織り込んで、ダンスに誘い込むように〈謳い〉あげ、終盤のギアアップが面白い。タイトルは、ラテン語のスラングで〈イカした奴〉〈パーティーで一番目立つ男〉という意味らしい。

ところで、天野をはじめ屋敷豪太(ドラムス)、田中倫明(パーカッション)ら百戦錬磨の強者が集結したのはよしとして、バンマスを任された羽毛田丈史(ピアノ)から、「奏法を変えないと」と言われたという葉加瀬。チャレンジ大好き人間は、新たなクリエイティブの扉を開いた。「これまで僕の音楽には歌謡的なメロディを軸に様々な音楽の要素を盛り込んできましたが、ジャズやブルース、ブルーグラスといった20世紀のアメリカ音楽の要素は入っていなかった。今回は、そういったアメリカ音楽をルーツにしたプレイを再発見して研究してみました」。新たな奏法に挑戦したほか、パット・メセニー、サンタナ、チック・コリア、デヴィッド・サンボーンらヴァイオリン以外のプレイヤーの奏法も取り入れたというから興味深い。確かに2曲目“Lads in Town”にはカントリーの匂いがしたりする。随所に感じられる、これまでとは一味違う滋味深い音色も聴きどころだ。

バンド名にある〈LADS〉という言葉は、屋敷の提案という。〈若者たち〉を意味するイギリス英語だが、「僕にとってはチームの〈仲間〉というニュアンスが強くて、サッカーの監督が〈うちのLADSがいい仕事をしてくれるんだよ〉みたいな言い方が、前から好きだった」と語っている。そう、このバンドは、各人が持ち味を発揮しつつ、臨機応変にシステム変更に対応しながら、最終的にゴールにつなげる大人の集団ということ。誰もがゴールゲッターでありうるし、アシストにも注力し、執拗なディフェンスもいとわない。パス交換を見るだけでもほれぼれするような銀河系バンドなのである。