
今あるものがオールOKなら、表現なんてやる必要がない
――“永遠少女”と、細井さんの“息をして(feat. 大友良英)”はプロテストソングとしての側面も持ち合わせています。“永遠少女”についてどう感じていますか?
細井「大きく見た時に、何かに対抗するとか、それこそパンク的、カウンターカルチャー的な思いがないっていう方が不自然だと思っています。それがどんな演奏であれ、曲であれ。もし生きていて今目の前にあること、周りにあることがオールOKなんだったら、音楽や何かを表現することなんてわざわざやる必要がないと個人的には思っています。
精神的にも呼応することはすごくありますし、向井さんのストロークだとか、曲を構成する一つ一つにも共感します」
河合「ただ私は、どちらも〈プロテストソング〉と一括りにされることにも個人的に抵抗があって。映画のキャッチコピーにも使用している〈戦〉も〈災い〉も、どの時代にもあったことなんですけど、世の中が新しくなっていくことで、自分達の体も心も変容して、何一つ同じことはない。常に自分も外も疑っていかなければならない中で、自問自答をくりかえすっていうのがこのプロジェクトでもあるし、徳ちゃんが音楽を鳴らす情動の理由でもあると思うんです」
――ライブセッション自体は2017年のものですが、コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻、イスラエルのパレスチナ虐殺、天災など、人々が無力感を覚えたり、政府や国など大きな力を疑うような事象が世界を襲う今、本プロジェクトはどのような意味を持つと思いますか?
河合「この作品が今の戦時下に何かを訴えかけられるとは、厚かましくて思えないです。ただ、自分ができることから始めたい。『平家物語』は約800年前の出来事で、口伝だったり、口述だったり色々な手段を駆使して盲目の琵琶法師がそれを留めさせたんですよね。私もそういう風になりたいけれど、〈できる/できない〉〈与える/与えない〉ということではなくて、あくまでも記録するということが私の役目だと思っています」
――本プロジェクトでは、すでに完成された映画というものに対して、これから完成していく〈生〉のもので挑む。出演者さんや関係者さん、観客である私たちも〈今〉から〈過去〉へ変遷していく瞬間を描いた絵巻の中の一部として切り取られる。それはまさしく〈諸行無常〉であり、戦争や災厄といった巨大なものに対する人間に許された唯一のささやかな足掻きは、〈表現〉〈創作〉なのではないかと思いました。お2人はどう思われますか。
細井「完成された映画に対して〈生の演奏〉で挑むわけですが、実際に映画を観ていただくお客さんの頭の中ではこの映画は完成されていない状態のはずです。仮に一度観たことがある人でも、その日その時の感情は間違いなく完成されてはいません。そういった意味では、完成された映画も生の演奏も対等なのかなと思います。
今作の大きなテーマである〈諸行無常〉についてですが、常日頃考えていることがあります。例えば、大切な誰かが亡くなってしまったこと、日本の外で戦争が起きていること、世間で流行っていること、友達が良い作品や良いライブを作ったこと、近くのスーパーで親切にしてもらったこと、身近なことであれ手の届かない場所でのことであれ、結局自分自身の心の中や自分の持っている物差しでしか物事を感じることはできません。だからこそ自分の日常の中で感じた一つ一つを大事にしていきたい。〈諸行無常〉についても、〈大事じゃないよな、変わっていくから〉っていうのはあんまり好きじゃなくて、〈変わっていくものだから、せめて自分の中では大事にしよう〉という風に思っています」
河合「〈諸行無常〉がくりかえされるのは、基本的に矛盾が毎回起こるということなんですよ。だけどそれを考えていく、自問自答することが大事だと思ってます。
監督した『兵士A』も『平家物語 諸行無常セッション』も1回きりのもので、それを誰かに伝えることなんて、私にはできない。だから本作も2017年5月28日に起こった現象とは別のものです。でも、その時の空気や、感情があったことは、自分は知ってる。知ってるけれども、それが表現できないっていう矛盾との葛藤を、今回のプロジェクトでくりかえして……これ自体が〈諸行無常〉ですね。何度も〈死んで/生き返って〉をくりかえしているんです。
だから、必ず現場に来てください。私は今回の模様も全部撮りますけど、記録に頼らないでください。それにはその瞬間にあったものは残ってなくて、あなたの中だけにしかないんで、絶対に、劇場に来て体感してもらうことが大事です。それを最後に伝えたいですね」
MOVIE INFORMATION
平家物語 諸行無常セッション

監督・撮影・編集:河合宏樹
出演:古川日出男/坂田明/向井秀徳
協力:高知県五台竹林寺
音響:葛西敏彦
製作・配給・宣伝:K3企画
2022年/日本/カラー/64分
©株式会社K3企画
2024年9月7日(土)~13日(金)新宿K’s cinema 全日イベント上映 全国行脚上映
2017年5月28日、高知県・五台山竹林寺にて、作家・古川日出男とサックス奏者の坂田明、ZAZEN BOYSの向井秀徳が共演するライブイベント〈平家物語 諸行無常セッション〉が開催された。「平家物語」の現代語全訳を完成させた古川、以前より朗読と演奏で「平家物語」を翻案してきた坂田、音楽を通し〈諸行無常〉を繰り返し唱えてきた向井の3人による、圧倒的かつ伝説的なステージであった。文学、音楽、演劇の枠を超え、響かせた祈りがライブセッション映画として今また蘇る。
EVENT INFORMATION
「平家物語 諸行無常セッション」上映後イベントラインナップ+ゲスト
「諸行無常セッション」初日トーク
2024年9月7日(土)
登壇:古川日出男(作家)/坂田明(サックス奏者)/向井秀徳(ミュージシャン)、河合宏樹(映画監督)
司会:安東嵩史(編集者)
【トーク】ライブ映像が映画になるためには
2024年9月8日(日)
登壇:七里圭(映画監督)/河合宏樹(映画監督)
映画とは何かと自問自答を繰り返してきた七里圭監督に、ライブ映像とは何かと自問自答してきた河合宏樹が、その違いを問う。果たしてこの諸行無常セッションは映画なのか。
【トーク】〈落人〉たちの群島、あるいはその想像力
2024年9月9日(月)
登壇:管啓次郎(比較文学者、詩人)/安東嵩史(編集者)
日本全国に数多く残る〈平家の落人〉伝説。敗れしものを想像力の中で生かし、土地の歴史に包摂してきた人々の精神とは何か。今もなお消え去ることのない、この列島の集合的無意識を考える。
【トーク】コロナ禍以降のライブとライブ映像の違いを掘り下げる
2024年9月10日(火)
登壇:曽我部恵一(ミュージシャン)/山本啓太(ミュージシャン、映像監督)/河合宏樹(映画監督)
コロナ禍で多くのミュージシャンはライブを奪われ、配信ライブが台頭した。当時、配信ライブも数多くこなした曽我部恵一と、台風クラブのベーシストで映像作家でもある山本啓太に、河合宏樹が現在のライブ映像の価値について問う。
【トーク】「平家」のナラティブはどこにある?
2024年9月11日(水)
登壇:古川日出男(作家)/姜信子(作家)
司会:安東嵩史(編集者)
琵琶法師が語り、猿楽が舞い、この世の周縁に置かれたものたちが敗者の生と死を語り伝えてきた「平家」。現代にまで伝わるそれはいったい〈誰の〉語りなのか。物語と音曲の中に舞う、まつろわぬ魂たちとの対話。
【パフォーマンスセッション】女性視点の平家物語と永遠少女朗読、歴史ある映画館を鳴らす
2024年9月12日(木)
キュレーション:細井徳太郎&河合宏樹
朗読:青柳いづみ(俳優)
演奏:細井徳太郎(エレキギター)/宮坂遼太郎(打楽器)/山本達久(物音)
平家物語とは男たちの戦乱の話だけではない。女たちの闘いの史実でもある。女性視点の朗読に、打楽器、映画館全体を使い、歴史を立体化させる。戦や災いが近づく現世。こんな未来誰が想像していただろう? 探せ、探せ、探せ。
【パフォーマンスセッション】平家の亡霊の祟り、彼岸に声を届ける
2024年9月13日(金)
キュレーション:細井徳太郎&河合宏樹
踊り手:小暮香帆(ダンサー、振付家)
アンプラグド演奏:細井徳太郎(アコースティックギター)/玉川鈴(三味線)/辻祐(樽太鼓)
平家物語には多くの祟りが存在する。無惨に殺されていった物怪たちの気配を、和楽器の演奏をもちい、完全暗転させた映画館に小暮香帆の踊りで降臨させる。平清盛は物怪達の祟りにより命を落とした。彼岸まで届く声は存在するか。