分断に対抗する団結の力
ファースト・シングルとして6月に発表された“feelslikeimfallinginlove”では、恋に落ちた時の多幸感が鮮やかに歌われている。MVは、手話通訳者が優雅に歌詞を伝える映像の後、ギリシャのアテネにあるヘロディス・アッティコス音楽堂で何千人もの観客の大合唱で終わる大作になっていて、彼らの歌う愛が恋愛よりもずっと広い意味を持っていることを感じさせる。〈Pop Crush〉というYouTubeチャンネルの取材で、クリスは「恋に落ちるっていうのは状態のことで、人は望みさえすれば、全人類と恋に落ちることも可能なんだ。そして誰かを愛していると、日常のすべてがより美しく見えてくるよね」と説明していた。
一方で、セカンド・シングルの“WE PRAY”は、真摯なメッセージを多様なバックグラウンドを持つアーティストたちが、それぞれの祈りを加えながら進んでいく壮大な一曲だ。2021年の『Sometimes I Might Be Introvert』で全英チャート4位を獲得してマーキュリー賞を受賞したラッパーのリトル・シムズ、2023年の〈コーチェラ〉でアラブ語のステージを披露する初のアーティストとなったエリアナ、アルゼンチンでもっともストリーミングされているラテン・ポップ・シンガーの一人であるタイニー、クリスとの共演曲“Monsters You Made”を収録した『Twice As Tall』(2020年)がグラミーの最優秀ワールド・ミュージック・アルバムを受賞したナイジェリア出身のバーナ・ボーイ、この強力な4人とクリスの歌声が、斬新なリズムにドラマティックなストリングスを加えたサウンドの上で交差。世界中で深まる分断に対抗する団結の力を、曲として見せてくれている。彼らはこの曲をファースト・シングルと共にツアーで披露していて、アイルランドのダブリンの公演では、全ゲストが揃ってパフォーマンスした。
この他に、ナイジェリアの新星アイラ・スターを迎えたファンキーでダンサブルな“Good Feelings”と、クリスがピアノで弾き語るバラードの“All My Love”もこれまでのライヴで演奏されている。全10曲収録の『Moon Music』は、コールドプレイらしい切なさと昂揚感のあるメロディーは維持しながら、完全に新しいことに挑み、多様なジャンルの影響を織り交ぜたグローバルなサウンドのアルバムになりそうだ。90%がリサイクルのプラスチックで作られた史上初のエコCDであることも、今回の彼らの新たな挑戦だった。歴史的な重要作となるアルバムを通して体験できる日が待ちきれない。
クリス・マーティンが参加した近作。
左から、トラヴィスの2024年作『L.A. Times』(BMG)、グリフの2024年作『Vertigo』(Warner)
『Moon Music』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
左から、リトル・シムズの2022年作『NO THANK YOU』(Forever Living Originals)、バーナ・ボーイの2023年作『I Told Them...』(Atlantic)、タイニーの2023年作『Cupido』(Hollywood/Sony)、アイラ・スターの2024年作『The Year I Turned 21』(Republic)、ジョン・ホプキンスの2024年作『RITUAL』(Domino)
コールドプレイのアルバム。
左から、2000年作『Parachutes』、2002年作『A Rush Of Blood To The Head』、2005年作『X&Y』、2008年作『Viva La Vida Or Death And All His Friends』、2011年作『Mylo Xyloto』、2014年作『Ghost Stories』、2015年作『A Head Full Of Dreams』、2019年作『Everyday Life』、2021年作『Music Of The Spheres』(すべてParlophone)