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答えのない問いに向き合ってみよう

――本作の制作にあたっては、どんな作品にしようという狙いがありましたか?

甫木元「何かのコンセプトを設けたわけではないのは、これまでの作品と同じです。でも自分が書く歌詞においては、これまでの自分の経験や見た景色を落とし込むようなやり方から、ちょっと離れたいと思っていました。意味や情景よりも、もっと音楽に寄り添うための言葉にしたかったというか。

菊池の作る曲はまず彼が英語で歌ったデモが来て、そこに僕が日本語を当てはめていくんですけど、そのパズル感がもっと出れば、今までと違った表現になるかもしれないと思って。それを意識したのはシングルとして出した“頬杖”以降のことで、a.n.さんに作っていただいたアートワークに出てくる異世界の生物みたいに、風景を擬人化したり、死を別のものに変換して書いてみた曲が多いですね」

――なぜこれまでとやり方を考えてみようと?

甫木元「自分の持っている引き出しがそんなに多くないことはわかっているので(笑)。これまでの歌詞に通底していたテーマに対して、少し角度を変えて捉え直してみたらどうなるのだろうという興味が沸いたんです。

例えば〈生と死〉についてこれまでずっと考えてきましたが、“聞かせて”で〈愛とか幸せは言葉足らず〉と直接的に歌詞にしたように、答えのない問いに対して変に答えを出そうとせず、本当の現実がそうであるようにわからなさと向き合ってみよう……みたいな。散文的に文字を配置することで何か別の意味合いが想像できたりもする。歌詞のメッセージを真っすぐ伝えたいというよりも、意味から離れた言葉の力を発揮させたい。そんな気分ではありました」

――確かに今回の歌詞はファンタジー的な印象のものが多いです。1曲目の“空も飛べない”から〈あいつもこいつも空に飛んで〉と繰り返される。

甫木元「曲自体は結成当初からあった古い曲なんですけど、これまでの作品には合わないと思ってずっと先送りにしていました。描いている世界がちょっと気持ち悪く聴こえる気がしていたんですが、今回の並びの中だったらありだなと思えたんです。

昔から誰かの死に対して〈お空に行った〉とか言うじゃないですか。この曲では死んじゃった人が空から語りかけたと思ったら、次の行では空に夢を抱いて見上げている人が返答している。映画でカットを割ったシーンのように、亡くなった人と生きている人の視点を交互に切り取るような遊び心を意識しています」

――こういう視点で描こうとする上で、リファレンスとした作品は何かありますか?

甫木元「元々自分の映画のルーツは、子どもの頃に観たスティーブン・スピルバーグとかロバート・ゼメキスとか『金曜ロードショー』でやっていたような1980年代のSF映画で。父親が僕に英語の勉強をさせるために字幕を消して観せられていたんです。そうなると映像だけでストーリーを追うしかない。その状態で観るあの頃の映画って、生と死について扱ってはいるけど描き方がすごく軽い気がして。悲しい音楽をかけて悲劇として描くのではなく、横たわった人の魂がフワーっと天に昇っていくようなあのチープな感じ。悲しみや怒りをそのまま表現するのは簡単だから、視点を変えて想像力を与えることで浮かび上がるポップな感じはイメージとしてありました」

――甫木元さんが書く歌詞の部分に対して、菊池さんはどのようにコミットしているのですか? 

菊池「基本的に歌詞の内容は甫木元に任せていますが、〈これは何の歌なんですか?〉とか〈この行がきもい〉とか思ったことがあれば率直に伝えていますね」

甫木元「〈菊池英語〉で歌われているデモに日本語を当てはめたとき、元々あった良い響きが半減する感覚があって。いいところに落とし込めるように違和感がある箇所を言ってもらったり、たまに面白い言葉を投げかけてくれるのでそれを採用したりはしています」

――菊池さんのおっしゃる「きもい」とは具体的にどんな部分に違和感を受けますか?

菊池「自分が英語で歌うことを前提に曲を作ってしまうので、サウンドやメロディーへの乗り方としては、いくら甫木元が天才だったとしても日本語の限界があるんですよね。だからいい言葉だなと思っても、音としてどうしても違和感があるから、惜しみつつさようなら、みたいなこともあるんです」

甫木元「でも自分には菊池の言う〈きもい〉が何のことかはわかるんですよ。要するにその言葉が持つ意味が一面的で、よくある感じになっちゃっていますよ、我々がやらなくていいんじゃないですか?という部分を言ってくれている気がします」

菊池「今回の曲で言えば“聞かせて”は甫木元ならではの歌詞って感じがしますね。〈あいつ〉のようなぶっきらぼうな言葉や言い回しが初期は結構あったんですけど、最近は〈丁寧な暮らし〉みたいな歌詞が多い気がしていたので、戻ってきた感じです」