ジャキス・モレレンバウム × パウラ・モレレンバウム × 伊藤ゴロー
坂本龍一と、アントニオ・カルロス・ジョビン
そして、三人が奏でる音楽について
作編曲家、プロデューサー、ギタリストとして活躍し、自身のボサノヴァ・ユニットnaomi & goroのアルバムなどで坂本龍一と共演した伊藤ゴロー。90年代から坂本龍一と共演を続け、2001年に妻パウラ、坂本と組んだユニット、Morelenbaum2/Sakamotoでアントニオ・カルロス・ジョビン作品集『CASA』を発表したジャキス・モレレンバウム。ジャキスと共にジョビンの晩年10年間のバンド・メンバーをつとめ、『CASA』のプロジェクトの発起人ともなった歌手、パウラ・モレレンバウム。この3人が12月、坂本龍一にトリビュートするコンサート・ツアーを行なう。東京(ゴロー)、リオ(パウラ)、ツアー先のボストン(ジャキス)を結んで、坂本龍一とジョビンへの想いを聞いた。
パウラ・モレレンバウム「リュウイチは私とジャキスにとって、とても大切な存在でした。リュウイチの作品と『CASA』で録音したジョビンの作品を通じて、亡き彼に捧げるコンサートを思い立ったとき、すぐに頭に浮かんだ音楽家が、リュウイチとも私たちとも共演してきたゴローでした」
――ゴローさんとジャキス、パウラの出会いは?
伊藤ゴロー「2009年にリオでnaomi & goroの録音をする際、教授(坂本龍一)にジャキスを紹介してもらい、初めて共演しました。その後も僕のアルバムやコンサートにゲストで参加してもらいました。僕がプロデュースした『ゲッツ・ジルベルト+50』(2013年)の中には、教授とジャキスと僕が演奏した曲も入っています」
ジャキス・モレレンバウム「サカモトに紹介されたゴローは、私に共通する音楽観、音楽に対する愛と美学の持ち主で、ブラジル音楽を熟知している上に、クラシックの素養もある。ゴローとの出会いは大きな喜びだった。2014年、日本で一緒に録音したアルバム『ランデヴー・イン・トーキョー』にはパウラと娘のドラも参加した」
パウラ・モレレンバウム「ゴローは素晴らしいギタリストで、自分自身のやり方でブラジル音楽を演奏することができます。そしてリュウイチと同じく、ジョビンの音楽を深く理解しています。ゴローが作曲、私が作詞した曲もあるんですよ(注:naomi & goroの2016年盤『RIO, TEMPO』に2曲収録)」
――コンサートへの想いを聞かせてください。
伊藤ゴロー「『CASA』はジョビンの作品集だけど、教授の影というか気配がすごく強いアルバムです。だから僕もジャキスもパウラも、教授がそこにいるような気持ちで演奏すると思います。『CASA』はボサノヴァやブラジル音楽を超えたところもある素晴らしいアルバムで、教授もジョビンの音楽をすごく研究して、自分に何ができるかという挑戦だったと思うんです。その手助けをしたのが、実際にジョビンと一緒に演奏して、ジョビンの音楽を肌で感じてきたパウラとジャキスだったので、この3人が作り上げた『CASA』にトリビュートできることは、とても幸せだと思います」
ジャキス・モレレンバウム「私がサカモトと出会う前の話をさせてほしい。サカモトの長年の友人、アート・リンゼイがプロデュースしたカエターノ・ヴェローゾのアルバム『シルクラドー』(91年)に入っている“イタプアン”は、私が初めてアレンジしたカエターノの曲だ。家でアレンジをしていた時、パウラが『戦場のメリークリスマス』のサントラ・アルバムを何度もかけて聴いていた。私は“メリー・クリスマス、ミスター・ローレンス”のイントロのメロディの断片を“イタプアン”のアレンジに無意識に反映した。そのメロディは、ジョビンがアレンジした“Pela Luz dos Olhos Teus”(作詞作曲:ヴィニシウス・ヂ・モライス)のイントロのメロディからサカモトがインスパイアされたものでもあるんだ。その翌年、私たちは知り合い、2017年までの約25年、一緒に世界中で演奏してきた。最も尊敬する音楽家の一人であり、私のブラザーであるサカモトにトリビュートするコンサートを、ゴローとパウラと一緒に大好きな国の日本で行なうことは大きな栄誉、喜びだ」
――12月に没後30年を迎えるジョビンにオマージュする東京でのコンサートもあります。パウラとジャキスの、ジョビンについての思い出を。話しきれないかもしれませんが。
パウラ・モレレンバウム「ジョビンと日本を結ぶ思い出があります。私たちが初めて日本に行ったのは86年、ジョビンのバンドでした。大勢の日本人が聴きに来て、しかもジョビンの曲のポルトガル語の歌詞を歌う! 地球の反対側同士でも、音楽を愛する心を通じて深く繋がっていることに、ジョビンも私たちも感銘を受けました」
ジャキス・モレレンバウム「私がジョビンのバンドに入って最初のコンサートが84年、ニューヨークのカーネギーホールだった。リハーサルの初日、〈マエストロ、私にどんな演奏を求めますか?〉と尋ねたら、ジョビンは〈君がやりたいように演奏すれば良い〉。その一言で私は緊張から一気に解放された。その後、リオにいる時は毎晩、私たちメンバーがジョビンの家に集まり、ピアノを囲んで演奏し、飲み、語った。音楽、人類、地球環境、愛……。ジョビンの話には、つねにインスパイアされてきた」
――最後にゴローさんからあらためて、坂本さんに捧げるコンサートへの抱負を。
伊藤ゴロー「『CASA』へのトリビュート、教授の音楽へのトリビュートと分けるのではなく、どちらもひとつの音楽、地続きの音楽として、同じアプローチでアレンジ、演奏しようと思ってます。教授自身が、ジョビンも坂本龍一も同じ音楽の系統樹の中に位置する作曲家であると思ってたんじゃないでしょうか。僕自身もそこにいたいと考えています」
ジャキス・モレレンバウム「その考えには完璧に同意するよ!」
パウラ・モレレンバウム「素敵なアイディアね。そして私たちは、ゴローにサプライズも用意しますよ。それが何かはお楽しみ(笑)」
LIVE INFORMATION
伊藤ゴロー+ジャキス&パウラ・モレレンバウム
JAPAN TOUR 2024 TRIBUTE TO RYUICHI SAKAMOTO
2024年12月3日(火)大阪・ビルボードライブ大阪
開場/開演:16:30/17:30(1st)
開場/開演:19:30/20:30(2nd)
2024年12月4日(水)静岡・静岡コンベンションアーツセンター/グランシップ 中ホール・大地
開場/開演:18:30/19:00
スペシャル・ゲスト:坂本美雨
2024年12月6日(金)横浜・ビルボードライブ横浜
開場/開演:16:30/17:30(1st)
開場/開演:19:30/20:30(2nd)
2024年12月8日(日)福岡・みらいホール
開場/開演:15:30/16:00
出演:伊藤ゴロー(ギター/アレンジ)/ジャキス・モレレンバウム(チェロ)/パウラ・モレレンバウム(ヴォーカル)/佐藤浩一(ピアノ)/小川慶太(ドラムス/パーカッション)/角銅真実(パーカッション)/伊藤彩(ヴァイオリン)
https://www.eight-islands.com/tribute-to-ryuichi-sakamoto-japan-tour
METROPOLITAN JAZZ VOL.6
Homage to Antonio Carlos Jobim
2024年12月5日(木)東京・I’M A SHOW
開場/開演:18:00/19:00
出演:naomi & goro(布施尚美:ヴォーカル/伊藤ゴロー:ギター)/ジャキス・モレレンバウム(チェロ) /パウラ・モレレンバウム(ヴォーカル)/坂本楽(フルート)/佐藤浩一(ピアノ)/小川慶太(ドラムス/パーカッション)
https://www.eight-islands.com/metropolitanjazz06